Research Abstract |
中琉球固有の遺存種イボイモリの系統地理に関しては,これまで沖縄諸島と奄美諸島の間での比較的大きな遺伝的分化がアロザイム分析から示唆されている.しかし,分析に用いられたのはごく限られた産地のサンプルで,より包括的な変異分析が待たれている.そこで本年度は,奄美大島,徳之島での調査を中心に行い、昨年度まで得られた沖縄島,渡嘉敷島,瀬底島のサンプルを含む23産地の計69個体を対象に,ミトコンドリアDNAのチトクロームbの全配列にtRNAの一部を併せた計1211塩基対の変異を分析した.また,他のイモリ類のデータも可能な限り分析に加えた.分析の結果,本種とチンハイイボイモリの姉妹群関係が改めて確認された.イボイモリ種内は,沖縄諸島の個体群と奄美諸島の個体群に大きく二分岐し,分化の程度は他の一部のイモリ類の種間における分化よりも大きかった.それぞれの島嶼群内については,奄美大島と徳之島のサンプル間は比較的小さな分化を示した.一方沖縄諸島内では,同じ島嶼のサンプルが必ずしも排他的にまとまらず,まず大きく沖縄島中・北部と瀬底島のサンプル,および沖縄島南部と渡嘉敷島のサンプルに分かれ,前者では後者に比ベサップル間での遺伝的変異が大きかった.本種とチンハイイボイモリの間,および本種の沖縄諸島と奄美諸島の間での分岐年代は,それぞれ800-500万年前,500-300万年前と推定された.以上の結果は,沖縄諸島と奄美諸島の個体群の分断が,イボイモリの進化史の中でも比較的早い段階で生じたこと,沖縄諸島内での分化が現在の海峡とは異なる障壁による分断に起因することを強く示唆している.また,奄美大島南部では,30年近くも公式の記録がなかったが,今回生息を確認した.請島では,これまで写真に基づく分布が確認されたのみだったが,今回初めて個体の採集に成功した.
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