2008 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
19510261
|
Research Institution | Graduate School of Film Producing |
Principal Investigator |
西 周成 Graduate School of Film Producing, 映画プロデュース研究科, 准教授 (60440426)
|
Keywords | ロシア映画 / 映画文化 / 映画政策 |
Research Abstract |
本年度の第一の成果は、本国でも十分な研究がなされていない1990年代ロシアの映画作品群を、ロンドン国際大学付属スラヴ及び東欧学研究所(SSEES)やロシアの研究者達の協力を得て、重点的に調査できたことである。それらの諸作品を、主要な映画雑誌の記事を参照しつつ分析することにより、市場経済への移行と映画文化をめぐる環境の激変が重なったこの時期のロシア映画の特殊性が明らかにされた。 第二の成果は、映画文化分析の方法論の精密化である。1990年代ロシア映画の特殊性を、映画文化全般の分析の方法論を精密化しながら記述することで、本研究は単なる地域文化研究の枠を超えた普遍性を獲得すると思われた。そうした意識に基づき、近年の芸術研究において重要な位置をしめるピエール・ブルデューの「場」の理論を援用しつつ、映画作品と映画に関する言説との相互関係の変容・推移を歴史的・国際的な文脈も踏まえて辿ることとした。この過程で明らかになったのは、1920年代のヨーロッパにおけるアヴァンギャルド運動や近年の欧米におけるアートハウス市場の成立過程が、90年代のロシア映画文化の諸現象との構造的類似性や影響関係を持っているという事実である。 これらの成果を踏まえた第三の成果は、2000年代以降現在に至るまでの若い世代の登場やロシア映画全体の多様化を、90年代の映画文化の構造的再編との関連で考察する可能性が得られたことである。それは映画産業の復活という、一般的には産業内部的と見なされる事象を、経済的観点からだけではなく、意味論的な場としての映画文化の構造の変遷という学際的視点から、しかも体系的に分析し得ることを意味する。映画文化の構造的諸特性を、大きな変動を伴う具体的事象の分析を通じて明確に示しているという点で、本研究は今後の映画政策をめぐる研究や他のメディア研究に対しても、一つの基準点を提供しうるものと思われる。
|
Research Products
(1 results)