2010 Fiscal Year Annual Research Report
ジェンダーで読む労働運動ー近代化過程のドイツを中心に
Project/Area Number |
19510268
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
姫岡 とし子 東京大学, 大学院・人文社会系研究科, 教授 (80206581)
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Keywords | 近代ドイツ / 労働 / 労働者 / 家族 / ネイション / ナショナリズム / ジェンダー / フェミニズム |
Research Abstract |
本研究では、ドイツ近代における労働運動とジェンダーの関連について考察した。19世紀中頃までは就業労働において〈男性の労働〉と〈女性の労働〉の境界線が明白で、既婚女性は主に家族従業員として、未婚女性は、家庭外での補助労働や家事奉公人として就業しており、男性優位の労働ヒエラルヒーが確立していた。19世紀後半、とりわけ70年代以降に機械化の進展によって工場労働が拡大すると、男性は女性の競争や女性労働に脅威を抱くようになる。労働運動においても、女性は家庭という言説が登場し、運動から女性を排除して男性的な性格を強めようという動きが出てくる。女性労働に敵対的でない勢力や、女性の側でも、ジェンダー的視点をもたずに、もっぱら階級の観点が強調されるため、資本による女性労働搾取に反対するために、結果的に女性が「弱者」として構築されたり、「家庭の崩壊」が指摘されたりすることになる。本研究ではさらに、右派のナショナリズム系労働組織におけるジェンダー関係にも注目した。事務系の職業においても、19世紀末から女性の進出が見られるようになり、女性の競争に脅威を抱く男性事務員たちは、その元凶はフェミニズム運動にあるとみなして、当時勢力を拡大しつつあったフェミニズム運動への敵対を強め、20世紀初頭に形成された反フェミニズム組織に参加する。彼らにとって女性上司の存在は(実際にはそのようなケースは見られない)受け入れがたい屈辱であったため、「指導力・決断力のなさ」という女性の「本性」が強調されることになる。強国ドイツの建設にも意欲を燃やす右派勢力は、フェミニストはユダヤ人とならんでドイツを破壊に導く「インターナショナル」勢力だと攻撃し、世紀初頭の出生率減少の原因もフェミニズムに寄せられることになる。
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Research Products
(3 results)