2007 Fiscal Year Annual Research Report
合理性の本性-現代認識論から見た「ア・プリオリ」の擁護と究明の試み
Project/Area Number |
19520012
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Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
高橋 克也 Saitama University, 教養学部, 准教授 (50251377)
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Keywords | ア・プリオリ / 規範性 / 認識的規範 / 合理主義 / 行為者性 / 規約 / 道徳的規範 / 主意主義 |
Research Abstract |
われわれの認識の合理性の根幹をなす規範と考えられてきたものが「ア、プリオリ」な真理と哲学の世界では呼ばれて来たわけであるが,19年度は,海外の研究者との交流の過程で,20年度の課題として予定していた「規範性」についての分析哲学的アプローチを優先することとなった。実際,多く得るところがあった。特に,研究に着手する前はこうした規範をコミュニケーションの基盤をなす社会的な規約と関連させて究明することができないかと考えていたが,むしろそうした社会的規約とは,がんらい本質的に異質なものと見るべきであるとの結論に近づいている。そう考える最大の理由は,認識や思考の規範が道徳や社会的慣習と異なって,各自が選択の自由によってこれに違背するということがそもそも可能でなく(少なくとも直接的な仕方では可能でなく),主体に関する主意主義(voluntarism)と相容れない性質のものだからである。また,論理を典型とするこうした認識的規範(epistemic norm)に違背することがあっても,それ自体として道徳的非難や社会的制裁の対象を構成するわけではない。(もっとも論理に違背しうる能力とはどういうものかは,難しい問題として残っている。)それどころか逆に,認識的規範がそれ自体としての自律性をもつからこそ,論理や道理に従って思考することは道徳や社会的規範をすら批判するよりどころとなりうる。以上は,哲学史的には古くからの伝統をもつ,認識における行為者性(epistemic agency)の問題を現代の諸議論を踏まえて考え直した結果である。こうした考察は,当初の目論見以上に,現代の幾人かの合理主義者たち(ピーコックなど)の仕事に意義を認める路線にもつながった。すなわち,概念を持って思考するということが必然的に何らかの構造的連関に服することを余儀なくするものであり,その連関は言語や社会の規約に対して独立した次元に属するという考え方の擁護である。
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