2008 Fiscal Year Annual Research Report
合理性の本性-現代認識論から見た「ア・プリオリ」の擁護と究明の試み
Project/Area Number |
19520012
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Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
高橋 克也 Saitama University, 教養学部, 准教授 (50251377)
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Keywords | 認識論 / ア・プリオリ / 合理性 / 大陸合理論 / 現象学 / 論理学 |
Research Abstract |
ア・プリオリな認識、すなわち経験に依存しない認識という哲学上の概念の持つ意義について、本年度は一つの結論を得ることができた。ア・プリオリに知るということは、決して経験を通さずに観念を弄ぶだけで何らかの知を得るということではない。経験を通して事象の構造を洞察し、そこから、ある種の現象が「必然」であるとか「可能」「不可能」であるといった判断を下しうるようになること、つまり普通の言葉で言えば対象の本質を悟ることである。デカルト、ライプニッツ、カント、フッサールといった近代のヨーロッパ大陸哲学にはこのような知を求める姿勢が一貫している。他方、現代認識論の多くの論者はこの点を把握できていない。その証拠は、論理学と数学の真理を知ることがア・プリオリな認識であると彼らが考えていることである。論理学と数学は現実の現象を対象とするものではない。もっぱらこれらを「ア・プリオリな知」とみなすことは、現実を相手にして発揮される生きた論理性と形式的体系の知とを混同するものにほかならないのである。とはいえ、本研究は、こうした現代認識論への批判的診断を、現代のいくつかの精緻な議論との対決を経て表現可能にできたのであり、特にクリプキの「偶然的なア・プリオリ」という概念の批判的検討がよい足がかりとなった。さらに、「偶然的ア・プリオリ」と現象学における「歴史的ア・プリオリ」といった類似の概念を比較し、相互の違いを明らかにすることで、冒頭に述べた結論を得ることができたのである。なおまた、ピーコックなど分析哲学系の幾人かの合理主義者たちに本研究の結論と近い視点を見出すことができた。
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