2008 Fiscal Year Annual Research Report
個体存在とモイラ運命の形而上学-アリストテレス研究-
Project/Area Number |
19520014
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
山本 巍 The University of Tokyo, 大学院・総合文化研究科, 教授 (70012515)
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Keywords | ギリシア哲学 / アリストテレス / ヘラクレイトス / オイディプス / 偶然性と運命 / 原初受動性 / 言葉 / 政治動物 |
Research Abstract |
アリストテレスは人間を政治動物とした。人間は言葉をもつことで、各自それぞれがあらゆる方向に自分用の関心と可能性を開き、同時に他人に見せかけ欺すことも可能な生き物である。つまり人間は、言葉をもつことで個体化するのである。そして偶然の混乱と衝突の可能性に直面しながら、共生の意義をその都度言葉で発掘する課題を負ったのが政治動物である。 自分のこころの願いを目的とし、これを自分の能力で達成しようとする昨今の自己実現は、その成功と失敗が声高に言われるが、自分のこころの思い描く可能性の延長ですべてを測る視野狭窄の弊がある。人間は、その存在の理由を自己の掌中に掴む自己原因では決してなく、原初受動性に縛られている。人を時に襲う偶然が、自分が世界の中心でも人生の主人でもない現実を突きつけるのである。世界はむしろ、ヘラクレイトスの言ったように「がらくたの山」である。そして世界のいかなるものも自分のこころの願いの実現焦点(神)としないことにおいて初めて、偶然にぶちまけられたがらくたの山である世界を無条件に受け入れる運命脈絡が開けることになる。それは言葉をもって個体化を遂行する人間の今一つの現実である。 原初受動性は、人が自分の出生の秘密を知らないことにある。人はなぜ自分が生まれてきて、何のために生きているかを掴んでないからである(ソクラテスはそれを「最大のことの無知」と表現した)。そのもっとも鮮烈な悲劇はオイディプスの運命の逆転にあった。オイディプスが人生を無条件に受け止めようとしたのは、自死した愛するイオカステに悲惨な人間の共苦同悲を見たからであった。
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Research Products
(3 results)