2008 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
19520018
|
Research Institution | Mie University |
Principal Investigator |
秋元 ひろと Mie University, 教育学部, 教授 (80242923)
|
Keywords | ホッブズ / ルネサンス / 貴族主義 / 共和主義 |
Research Abstract |
本研究は,近代政治哲学の確立者とも言うべきホッブズの思想をその発展史という観点から取り上げ,ホッブズが,西欧の思想伝統の継承と批判を通じて,どのようにして近代思想を確立していくかを明らかにすることを目的とする。今年度は,とくにホッブズがその政治哲学の前提とする人間観に焦点を合わせ,ホッブズの思想に以下のような展開が見られることを明らかにした。 哲学史の常識的理解によれば,ホッブズは,自己自身の善を追及する個人主義的人間観を前提としてその政治哲学を展開したとされる。しかし,ホッブズの初期の著作を見ると,そこには,ルネサンス期に再生した,古代ギリシア・ローマの伝統に根ざす,共和主義的ないし貴族主義的人間観の表明が見られる。同様の人間観は,ホッブズの主要著作『法の原理』『市民論』『リヴァイアサン』にもその痕跡が認められる。その人間観においては,具体的には,たとえばprideは「誇り」の意味で,共同体に貢献する公民の徳としての位置づけを与えられている。それに対して,主要著作の政治論においては,prideは「高慢」の意味で,共同体の秩序破壊に通じる性格としての位置づけを与えられる。このことが示すように,ホッブズは,公民の徳がもはや十全に機能しない状況を踏まえて,社会秩序の構築と維持のためには,現実的に,自己自身の善を追及する人間のあり方を拠り所とせざるを得ないという認識に達し,その政治論を展開したのである。
|
Research Products
(1 results)