2010 Fiscal Year Annual Research Report
集合的記憶を媒介とした世代間コミュニケーションに関する現象学的研究
Project/Area Number |
19520025
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Research Institution | Fukuoka Prefectural University |
Principal Investigator |
神谷 英二 福岡県立大学, 人間社会学部, 准教授 (40316162)
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Keywords | 現象学 / 記憶 / 習慣 / 情感性 / 集合的記憶 / 世代性 / 世代間倫理 / 世代間コミュニケーション |
Research Abstract |
これまでの研究成果を踏まえ、集合的記憶が世代間コミュニケーションに果たす役割を解明するために、ヴァルター・ベンヤミンの著作をもとに、固有名に関する具体的経験とその起源となる幼年時代の記憶に関する研究を行った。 ベンヤミンは、幼年時代の記憶に特別な意味を与えている。平成22年度の研究の問いは、「幼年時代の記憶は集合的記憶とどのように関わるのか」である。テクストとして、『ベルリン年代記』、『1900年頃のベルリンの幼年時代』、『パサージュ論』を主に扱った。最初に、ベンヤミンにおける子どもの特権性を明らかにした。子どもは進歩を信じてやまない19世紀という時代の集合的意識が見る「集団の夢」からの覚醒の契機となりうるために特権的なのである。次に、神話的世界に生きる幼年時代からの断絶について考察し、同時に、一度断絶した幼年時代を想起する技法について解明した。ベンヤミンは記憶を媒体と考えており、想起は不動の過去の貯蔵所を計画的に開くという行為ではなく、何度も繰り返すべき探究なのである。こうした探究により、一度断絶した幼年時代の形象をいまここに取り戻すことが可能となる。さらに、幼年時代の記憶の場としてのHofの役割を明らかにし、その後幼年時代の記憶と集合的記憶のつながりを素描した。そこでは自己の幼年時代の時間と自己以外の誰かの幼年時代の時間が重なり合い融合した現象としての「二重になった地面」とそれに対する「逆向きのデジャ・ヴュ」の重要性が解明された。最後に、幼年時代の記憶と集合的記憶の交差を探究する上で、他者の言葉が織りなしている過去の記憶を読む空間と自己の私的な過去の記憶を読む空間の両者が相互に浸透し合う場面を提示するテクストを多く含む『ドイツの人びと』がもつ意味を示した。
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