2008 Fiscal Year Annual Research Report
エディット・シュタインの手紙公開をめぐる論争に関する調査と文献研究
Project/Area Number |
19520061
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Research Institution | Hachinohe University |
Principal Investigator |
木鎌 耕一郎 Hachinohe University, ビジネス学部, 准教授 (90295965)
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Keywords | エディット・シュタイン / カトリック教会 / ユダヤ教 / 宗教間対話 / カルメル会 / 教会の沈黙 / 自己奉献 |
Research Abstract |
1933年春にエディット・シュタインが教皇ピオ11世に宛てて記したとされる手紙が、2003年に公開されたことを受けて、カトリックとユダヤ教の間に見られた論争に平成19年度に引き続き調査・研究を行った。 平成20年度は、エディット・シュタインの既刊の著作のうち、「私はどのようにしてケルンのカルメル会に入ったか」1938年執筆)を中心テキストとし、その他の関連文献の研究を通して、1933年春の「手紙」執筆の内的動機を探るとともに、エディット・シュタインの自己理解に見られるユダヤ人としてのアイデンティティとユダヤ民族との連帯感の特性と、カルメル修道会の霊性に基づく「殉教」への意志の特性について考察した。カルメル修道会の霊性に関しては、エディット・シュタインの著作に見られる理解だけでなく、一般的な見地からカルメル修道会特有の修道生活の理念と伝統的な霊性の特性を知るための資料収集・研究を行った。 公開された「手紙」をめぐる論争について、ユダヤ教の家族の視点(スザンヌ・バッツドルフ)と教会擁護に基づく視点(ウィリアム・ドイノ)とを比較検討した。この上記二者の議論は内容的に対立するが、両者とも問題意識の根底に政治的次元に向かう傾向が見られる点において共通する。一方でエディット自身における手紙執筆の内的動機には純粋な宗教的次元に向かう傾向が見られた。これらの次元的区別を明確にすることにより、件の論争の内実を批判的に考察する地平が開けたと考えられる。
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