2010 Fiscal Year Annual Research Report
古代オリエントにおける誓いの研究-アッカド語文書を中心に-
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19520068
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Research Institution | Toyo Eiwa University |
Principal Investigator |
岩田 和子 (渡辺 和子) 東洋英和女学院大学, 人間科学部, 教授 (00223397)
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Keywords | エサルハドン / アッシリア / 誓約 / アツシュル / 粘土板 / メディア |
Research Abstract |
報告者は、エサルハドン(在位前680-669年)が定めた王位継承を遵守することをアッシリア内外の要人に誓わせるための文書「エサルハドン誓約文書」(紀元前672年発行)について分析し、次の知見を得た。 (1) 発行されたはずのおびただしい部数のうち、1955年にカルフで発見された9部(メディア地方の施政者たちに宛てたもの)から、すべてにアッシリアの国家神アッシュルの「天命の印章」が押されていた。それによって、最高神が保持する「天命の書板」としての呪力をもつものとされていた。(2) この文書の粘土板は最大(縦45センチ、横30センチ、幅7センチ)であり、かつ粘土板としては唯一の例外として、表面に対して裏面を水平方向に回転させて読むように書かれているように、石碑として立てて読むことが期待されていた。(3) 石材はきわめて高価であったが、無尽蔵に入手できる粘土をマス・メディアとする文書であった。(4) 神アッシュルはアッシュルと呼ばれた土地の神格化であり、アッシリアの国家神となっても、土地に結びついた「ローカル」な神であったが、アッシリアが最大版図を達成して未曾有の大帝国となったエサルハドンの治世において、「エサルハドン誓約文書」の一節が示すように、アッシュル崇拝がアッシリアの支配下に入った外国人にも強要され、アッシュルの「グローバル化」が行われた。それは新たに想定できるエサルハドンによる「宗教改革」の一環である。(5) 前612年にアッシリアが新バビロニアとメディアの連合軍によって滅ぼされたときに、メディア地方の施政者たちがこの文書をカルフにもってきて砕いたと考えられるが、それは「天命の書板」としての呪力を恐れたためと推測できる。
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Research Products
(5 results)