2007 Fiscal Year Annual Research Report
「聖なるもの」と「文化」-世俗的モダニティの思想史的分析
Project/Area Number |
19520080
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
鏑木 政彦 Kyushu University, 大学院・比較社会文化研究院, 准教授 (80336057)
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Keywords | 聖なるもの / 文化 / 政治と宗教 / 神話 / ベンヤミン |
Research Abstract |
本研究の目的は、モダニティにおける世俗化の動向がもたらした生活世界の変化を、「聖なるもの」と「文化」に関する言説分析を通して解明することである。一年目にあたる本年は、当初、「宗教批判」「聖なる言説」「両価的言説」「文化批判」という四種の言説類型を近代における「聖なるもの」の代表的言説とする仮説を前提に、「宗教批判」から「文化批判」へと至る言説変容の分析の手がかりを獲得することに目標をおいた。しかし、研究の遂行に伴い、上記の四類型は個々の思想家に併存し、分析類型としてあまり有効でないことがわかり、若干の方向転換を行った。具体的には、(1)西洋社会における宗教と政治社会の来歴をキリスト教の歴史を振り返ることで辿り直し、(2)その観点から後期近代における注目すべき「聖なるもの」と「文化」の言説を生み出した思想家として、ヴァルター・ベンヤミンを評価するに至った。具体的に言えば、(1)に関しては、宗教、政治、法等の、人間の共同生活の領域をパーソナルな関係とインパーソナルな関係という視点から見直して、「宗教」と言われるものの位置づけを再定義しつつ、西洋思想の巨大な源泉となったアウグスティヌスの『神の国』の分析を行った。この古代思想の究明には、西洋のモダニティ分析のための準備作業の意味がある。この分析を踏まえて、(2)に関してであるが、西洋社会において独特の仕方で結びついた政教体制を根底から問いなおす思想家として、ヴァルター・ベンヤミンを評価する視点を獲得することができた。ベンヤミンの重要性は、そのアレゴリ「的思考が「宗教批判」・「文化批判」的言説の統合を示している上に、旧来の宗教的文化を批判する言説を、単なる世俗的解放の言説としてではなく、独自のメシアニズムの言説として展開している点にある。次年度以降は、このペンヤミンをとりまく思想史へと研究の舵を切り、「聖なるもの」と「文化」の思想史を究明したい。
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