2007 Fiscal Year Annual Research Report
ヴィア・ラティーナ・カタコンベ壁画に関する包括的研究
Project/Area Number |
19520087
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Research Institution | Hirosaki University |
Principal Investigator |
宮坂 朋 Hirosaki University, 人文学部, 准教授 (80271790)
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Keywords | カタコンベ / ローマ絵画 / 初期キリスト教 / 図像学 / 扉 |
Research Abstract |
平成19年度においては、紀元後4世紀のローマの地下墓所ヴィア・ラティーナ・カタコンベの壁画の最も特殊な特徴である墓室Fに描かれた「半開の扉」の様式分析と図像解釈にっいて、第60回美術史学会全国大会(5月25日九州国立博物館)研究発表を行った。内容については、(1)研究史、(2)半開扉の図像的系譜、(3)扉の構造、(4)外開きの扉の図像解釈、である。(1)においては今までの研究者が、広範なローマの葬祭美術に類例を見出し、その起源をヘレニズム絵画に求めてきたことを明らかにした。しかしながら、ローマの扉表現はむしろ古イタリア的、特にエトルリア美術にその起源を求めるべきものであることを指摘した。ヤヌス神がイタリア独自の神であることもその根拠である。(2)ローマ葬祭美術における半開扉がほとんど全て外開きとして表現されていることを指摘した。(3)しかしながらローマ時代の実際の住宅および神殿、あるいは都市の門扉は、内側に向かって開くことを建築史的に例証した。(4)さらに外開きの扉の特例として、プリニウス、ウィトルウィウス、プルタルコス、セルウィオスらが言及する、戦勝に際して褒章として与えられた特別な住宅triumphalis domusの存在を指摘し、葬祭美術における外開きの半開扉は現実の再現ではなく、勝利の含意が表現されていると解釈した。このように考えたときに、ヴィア・ラティーナ・カタコンベ墓室Fの半開扉は外開きに表現されておらず、他のローマの作例とは異なっている。それはむしろ人の出入りの多い普通の住宅のように表現されており、階段が、あたかも自然に上って行けるように床面直上に描かれている。また実際に階駐を上って行く人物や扉の後ろで待ち受ける人物、扉から外へ出て行こうとする人物が描かれていて、無人の扉とは異なる。おそらくここには「永遠の家」=墓に入って行く死者や懐かしい出会いのある、楽しい場所としての死が表現されているのではないか。
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