2008 Fiscal Year Annual Research Report
17世紀ローマ絵画における「想像力」の位置(ドメニキーノを中心として)
Project/Area Number |
19520120
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Research Institution | Fukuoka University |
Principal Investigator |
浦上 雅司 Fukuoka University, 人文学部, 教授 (60185080)
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Keywords | イタリア / バロック / 絵画理論 / ドメニキーノ / 想像力 |
Research Abstract |
平成19年度に行ったイタリアでのドメニキーノ作品調査に基づき、本年度の前半は、ローマ、サン・グレゴリオ聖堂に付属するサン・タンドレア礼拝堂におけるドメニキーノの絵画(聖アンデレのむち打ち)に焦点を当て、この作品の制作経緯と、反対側壁面に描かれたグイド・レニの絵画(十字架を拝む聖アンデレ)との関係を考察した。 その結果は半成20年12月に刊行した論文にまとめたが、同礼拝堂壁画制作の経緯を精査した結果、ドメニキーノは、すでに完成していたレニの(十字架を拝む聖アンデレ)を十分に検討した上で制作したことが確認できた。さらに同時代の文献資料を読み解き、ドメニキーソがレニの作品を批判的に検討しながら、それと大きく異なる知的な(透視図法による明確な画面空間構成、情景にふさわしい明快な登場人物たちの感情表現)絵画を作り上げたことを論じた。 競争相手の特質をよく考察した上で、それとは違う魅力を持つ絵画を作り上げるやり方は、ドメニキーノのやり方は彼個人の特質ではなく、師アンニーバレ・カラッチなどにも見られる、17世紀ローマで活躍した画家たちに一般的なやり方であった。彼らは多くの作品を見て批評し、自らの独自性、優越性を、潜在的な注文主たちにアピールしたのである。ドメニキーノ作(聖ヒエロニムス最後の聖体拝領)の独創性を巡って1620年代のローマで起こった論争も、こうした「画家間の競争」「独創性の重視」という観点から検討する必要があると考えられる。 これはもちろん、17世紀のローマにおける画家と社会の関係を総合的に理解するための一歩である。
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