2008 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
19520138
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
長島 弘明 The University of Tokyo, 大学院・人文社会系研究科, 教授 (00138182)
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Keywords | 初期読本 / 上田秋成 / 建部綾足 / 都賀庭鐘 |
Research Abstract |
1.初期読本成立の背景となっている、漢学者の文集等に収められている吏上の人物に関する伝や論を調査し、次の知見を得た。 (1)服部南郭の『大東世語』と上田秋成の『月の前』とを比較し、『月の前』は、歴史の裏面に隠された人間のドラマを描こうとする『大東世語』の方法を一層推し進め、西行と頼朝に登場人物としての明確な性格を与えているのみならず、それを歌書における西行像・歴史書における頼朝像に拮抗するものとして意識的に造形している。 (2)林家をはじめとする近世初期・前期の朱子学者の文集に見える、南北朝時代の人物の評価と名分論が、都賀庭鐘の『英草紙』の第一篇・第七篇・第九篇等の南北朝にかかわる話に多大な影響を与え、作品中からうかがえる庭鐘の南北朝史観の前提となっている。 2.初期読本の主要な版元と、初期読本の作家・作品との関係については、次の知見を得た。 (1)建部綾足の『本朝水滸伝』の合版元である梅村宗五郎は、以前から綾足の俳譜関係書を多く刊行している書肆であり、供諧・小説のジャンルを超えて綾足の作品を由しているところから、一種のプロデューサーとして綾足の著述活動に継続的に関与していると見ることができる。 (2)上田秋成の『雨月物語』の合版元である野村長兵衛は、『雨月物語』刊行以前から大阪文壇のつきあいの中で秋成と顔見知りであり、単なる著者と出版者という以上の関係であることから、野村長兵衛もまだ、一種のプロデューサーとして『雨月物語』の成立に関与した可能性がある。
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