2009 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
19520138
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
長島 弘明 The University of Tokyo, 大学院・人文社会系研究科, 教授 (00138182)
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Keywords | 初期読本 / 和文読本 / 上田秋成 / 建部綾足 / 伊丹椿園 / 石川雅望 |
Research Abstract |
1.初期読本の諸作家の世代別特徴について考察し、次の知見を得た。 (1)都賀庭鐘を初期読本の第一世代、建部綾足・上田秋成を第二世代、伊丹椿園・前川来太らを第三世代とすると、世代が下るに従って、思想的テーマを重視する文人的な高踏性は徐々に稀薄になり、後期の江戸長編読本と共通する構成重視の娯楽性が前面に出てくる。 (2)第一世代・第二世代の作家が、本格的に漢学ないし国学研究に携わっているのに対し、第三世代の作家は、俳諧等の素養はあるものの、漢学・国学については愛好家の域を出るものではない。それが上記の違いを生じている大きな原因の一つと思われる。 2.初期読本と後期読本の和文体作品の共通性と異質性については、次の知見を得た。 (1)和文体初期読本を多く書いた綾足にとって、それらの作品は、紀行や随筆、書簡などと横並びとなる、あくまでも多様な和文創作の試みの一つであった。 (2)石川雅望や村田春海らの和文体後期読本は、職業的戯作者の作品に対し、彼らの作品が国学を専門とする者の余技であることを、和文体を用いることで明確に打ち出したものである。 (3)しかしながら、和文体初期読本・和文体後期読本ともに、中国典拠の咀嚼、あるいは王朝物語風の風俗と同時代(江戸時代)風俗との描写における融合には、和漢混淆文を駆使した通例の読本以上の意識的な努力が傾けられており、かなり革新的な試みといえる。
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