2009 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
19520150
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
内田 賢徳 Kyoto University, 大学院・人間・環境学研究科, 教授 (90122142)
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Keywords | 萬葉集 / 訓詁 / 説文解字 / 古写本 / 上代 |
Research Abstract |
前年度に新たな課題として取り上げることになった、訓字の広い用法ということを、今年度はさらに進めた。例えば、「潮」字は、萬葉集でミナトと訓むことになる。これについては、同じくミナトと訓む「湖」字との通用ということが、山田孝雄『萬葉集講義』に見え、諸注はそれに従ってきた。しかし、山田の拠った中国の文献には、そうした事実はなく、文献自体の読みも誤っており、訂正が必要となる。これは、訓詰の常道に還って、『説文解字』の、 「水朝宗干海也」(川が海に向かい集まる)を適用すべきで、河口というその義が、即ち日本語のミナトの語源たる「水門」と照応している。それによってミナトに宛てたものである。また「湖」字は、琵琶湖に限って、「潮」字の応用として用いられている。こうしたことは、萬葉集の訓字使用に多く見られる。それらを子細に検討し、幾つか従来の訓詁を改めることができた。前年度に指摘した、萬葉集の古写本に関する資料を校本萬葉集に依存するという旧来の方法によったことに起因する不十分さは、なお十分には克服しえなかった。また、新点と称される、鎌倉時代の訓について、三度に亙るそれが一様でないことに付随するこれまでのデータを見直す作業は、継続したものの、完遂できなかった。が、データの精度は高くなった。また、最終年度である今年は、萬葉集以外の古代文献から得られた訓詁を、萬葉集の訓みと解釈に応用することに成果を見た。例えば、形容詞ヤサシの平安時代に起こった語義変化を萬葉集に漫然と湖らせていたことは、訓詁の不徹底と資料の十分な批判を欠くことの結果であったが、改めることができた。そうした検討の中で、風土記など上代の他の文献との比較に新しい視野を得たことは大きな収穫であった。
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Research Products
(4 results)