2010 Fiscal Year Annual Research Report
日本近代文学館所蔵芥川龍之介文庫和漢書の書き込みに関する文献学的研究
Project/Area Number |
19520151
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
須田 千里 京都大学, 人間・環境学研究科, 教授 (60216471)
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Keywords | 芥川龍之介 / 和漢書 / 日本近代文学館 / 『おぎん』 / 『るしへる』 / 『破邪叢書』第一集 / 『じゆりあの・吉助』 / 『日本に於ける公教会の復活』 |
Research Abstract |
今年度は本研究の最終年度として、日本近代文学館所蔵芥川龍之介文庫所蔵の和漢書(四六五点、および調査過程で追加された葛巻義敏寄贈本四点)の書き込み調査を終了し、報告書を作成した。その結果、何らかの書き込みのあるものは九三点、特に芥川龍之介による書き込みと推測されるものは三六点、頁の折られた箇所(または折り跡)のあるものは二九〇点存在することが判明した。芥川の書き込みと推測されるものについては全文翻刻し、それ以外のものについても適宜紹介した。その上で、書物から得られた芥川作品の材源について調査し、次のことを明らかにした。第一に、芥川の『るしへる』(大正七年十一月『雄弁』)前半で引用される『破提宇子』とその解説文が、神崎一作編『破邪叢書』第一集(明治二十六年九月哲学書院)所収『破提宇子』とその「緒言」に拠ること、『るしへる』のエピグラフ「聖朝佐闢」が『破邪叢書』第一集所収『杞憂小言』(潅水老杜多述、明治元年)下に拠ること。第二に、『じゆりあの・吉助』(大正八年九月『新小説』)で、吉助に洗礼を施した紅毛人が海上を歩いて去った設定や、キリストがマリアに恋したという教義が、浦川和三郎『日本に於ける公教会の復活4前篇』(大正四年一月天主堂)の第十八章の三、第十五章の二にそれぞれ拠ること。第三に、『おぎん』(大正十一年九月『中央公論』)における家族構成や拷問、「なたら(降誕祭)の夜」の家の描写が同書第十五章の一・二に拠ること、またおぎんの祈祷文や信仰が同書「附録 浦上、外海地方の信者間に伝はつて居た祈祷文」に拠ること、さらに、おぎんの棄教は渡辺修二郎『内政外教衝突史』(明治二十九年八月民友社)の童子の殉教を逆転させたものであると考えられること、等である。これを既発表の論文3編に加えて論考編とし、報告書に加えた。
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