2008 Fiscal Year Annual Research Report
『源氏物語』論-第二部、第三部の「王権」のあり方-
Project/Area Number |
19520173
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Research Institution | Nagoya Women's University |
Principal Investigator |
辻 和良 Nagoya Women's University, 文学部, 教授 (80217299)
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Keywords | 王権論 / 時間論 / 王朝的価値観 / 相関性 / 空間論 / 交易 |
Research Abstract |
いかに機能的に特権的立場の人物であっても、視界を遮るものがあれば見えないという夕霧巻に存在する論理〈おもての論理〉は、求心的な力学の働く王権索求物語のありようとは対照的なものであり、そして光源氏に突きつけられた直線的時間の宣告とも言える若菜上巻に記される「老」もまた、祭り行事によって終わりのない円環の時間を主催する王権的あり方と対照的なものであるが、今年度はこの2点を核として考察してきた。 これら「散文的」とも「遠心的」とも言える論理に関わっているのが、玉鬘であった。この人物は、第一部で登場した後、第三部竹河巻に至るまで、格別に目立った活躍があるわけではない。しかし、上の2点に関係して見過ごせない役割を演じている。 若菜巻での「老」問題を先鋭化しているのが玉鬘であり、夕霧世界に見えた「散文的」「遠心的」あり方の特色を、冷泉院という人物までをも巻き込みながら王朝的な価値観の相対化という、より論点を深化させて竹河巻で展開していくのも、玉鬘なのである。 一方、上の考察過程において、「王権」そのものについても改めて考察することになった。「王権」を現実に対する抵抗の中で現れるものとする考えがある。だとすると、どのような「現実」に向き合うものであるのか、それとの関係性の中で把握していかなくてはならない、すなわち新たな視点として「相関関係」としての「王権」論に気付くことになった。「王権」を考える中で、交易の問題も重要なことであるが、そのことにも手がかりを見いだせた。
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Research Products
(1 results)