2008 Fiscal Year Annual Research Report
啓蒙前期の地下文書と政治新聞における神の正義論解体
Project/Area Number |
19520194
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
三井 吉俊 Chiba University, 文学部, 教授 (00157546)
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Keywords | フランス文学 / 十八世紀 / 啓蒙思想 / 地下文書 / 思想史 / 三詐欺師論 / ジャン・メリエ / ヴォルテール |
Research Abstract |
啓蒙前期の哲学的地下文書の中でも、発見写本数二百を数え、数量的にも第一位にランクされる代表的作品『三詐欺師論』(1768年秘密刊行本)を邦訳刊行し、1719年にオランダで秘密出版された『スピノザの精神』と題された版を異文として付すと同時に、出典調査を現在可能な限りで訳注に示した。この調査研究の結果、カトリック陣営対プロテスタント陣営、およびフランス・ブルボン家対オーストリア・オランダ・イギリス連合で争われた「スペイン継承戦争」下、オランダにおける多くの亡命プロテスタント文筆家、中小のキリスト教分派に属する出版業者らの活動の中から、この著名な地下文書が誕生したらしいことが検証された。このような脱既成宗教的な思想的営為は、18世紀におけるいくつかのプロパガンダへと接続されていくがその様相は単純ではない。先に邦訳したジャン・メリエの『覚え書』というフランス国内で生産された独創的反宗教文書は、1730年代にはすでに「理神論」的要約版が作成され写本として流布した。この地下文書を基にヴォルテールは『ジャン・メリエの遺言書』を作成し、1762年から数年間集中的にこれを自らの「反教権」闘争に用いるため意図的に配布した。これをも前記『三詐欺師論』同様、啓蒙前期の哲学的地下文書として邦訳刊行し、上記の経緯を解題等で明らかにした。これによって、18世紀前半における写本流布を中心とした反宗教文書が、どのような具体的経路によって18世紀後半の啓蒙思想の大々的な展開へと接続したかの一例を示すことができた。
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