Research Abstract |
本研究は,近年発行部数が増加している,イスラム系児童英語文学について調査し,主にイギリスに住む児童を対象としたイスラム系児童文学について研究するものである。 本年度は,主にKUBE PUBLISHING出版の児童書を中心に,出版作品数,作品の形態,対象年齢,扱っているテーマ等の項目別に分類して調べた。この調査により,この出版社の作品は,クルアーンにおさめられた物語や,預言者やイスラム教布教に貢献した人物の伝記だけではなく,イギリス等現代の西洋社会に生きるイスラム教移民やその子孫,そしてイスラム改宗者の日常や,彼らをとりまく非イスラム世界とのかかわりなど,現代のムスリム(イスラム教徒)児童にとって身近なテーマが取り上げられていることがわかった。また,作品の形態も,イギリスの国語副読本と同じ形式になっており,学校教育や図書館などでも取り上げやすい形になっていることがわかった。これらの調査結果は,2007年8月アジア圏ではじめて開催された国際児童文学学会(INTERNATIONAL SOCIETY FOR THE RESEARCH OF CHILDREN'S LITERATURE)の第18回京都大会で発表し,この学会ではじめて扱われたテーマとして,フロアより活発な質問やコメントを得た。 さらに,イギリスにおけるイスラム系児童英語文学の現状として,図書館、学校等での使用状況や蔵書状況を調査するために,教育関係者や図書館員への聞き取り調査をおこなった。当初は,アンケート調査を中心におこなう予定であったが,アンケート対象の特定が難しく,実際に現地に出向いて,当事者からイギリスのエスニック図書や宗教的教科書の扱いに関する情報を得る方法へと軌道修正することにした。このことにより,ムスリム移民やその子孫の多いブラッドフォードやグラスゴーを中心に,エスニック児童図書担当の図書館員や,イスラム系学校の教員や校長などに聞き取り調査行えた事は,有意義であった。 この調査では,図書館ではエスニック系図書をブラッドフォード等にある図書供給機関に依頼して購入しているので,同じような本が違う地域の図書館においても納められていること,英語とウルドウ語など,二言語で書かれた絵本がよく購入されていること,また地域によっては英語以外のことばのみで書かれた図書が多くおさめられていることなど,当初予想していなかった現状が明らかになった。このことにより,英語で書かれたイスラム系児童書を読む読者や,それらの図書を購入する保護者・教育者・図書館員が,英語で書かれたイスラム系児童書を選ぶ理由について,またこれら児童書の存在意義について考察を深めることができた。これらの研究成果は,『国際学への扉』という図書の中で,この分野の紹介もかねて発表した。
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