2007 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
19520210
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
藤井 たぎる Nagoya University, 大学院・国際言語文化研究科, 教授 (00165333)
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Keywords | シェーンベルク / マトリックス / 資本主義 |
Research Abstract |
世紀転換期のウィーンにおいて、マーラー(音楽)=グスタフ・クリムト(絵画)=オットー・ヴァーグナー(建築)の三つ組みにかろうじてまだ残滓として認められる装飾性は、つぎの世代のシェーンベルク(音楽)=エゴン・シーレ(絵画)=アドルフ・ロース(建築)の三つ組みでは、完全に放棄されることになる。18世紀以来の近代和声音楽を支えてきた協和音と不協和音の差異のシステムは、あくまでそのシステムの内部においてのみ意味を持つにすぎない。そのシステムの外部において、あるいはシステム自体が解体してしまえば、両者の差異はなくなり、協和音や不協和音もまたその意味や価値を失うほかない。シェーンベルクは、そうした認識からあらたにもっぱら音と他の音との差異に基づくシステムを再構築することによって、音楽のマトリックス=母体を提示したと言ってよい。以上のような前提に基づき、以下の4つの仮説を立てて、考察を行った。 1.1500年から1900年までのおよそ400年間、西洋音楽を支えてきた調性システムは仮想現実である。 2.リヒャルト・シュトラウスを、映画『マトリックス』の裏切り者サイファーのように"転向"させる契機となった"無調"は"現実界の砂漠"である。 3.シェーンベルクの"不協和音の解放"や12音システム(「相互にのみ関連づけられた12音による作曲」)は、彼の死後50年間の音楽を生み出すことになるマトリックス=母体である。 4.シェーンベルクのマトリックスは、図らずも資本主義社会の差異のメカニズムの音楽的表象としてある。
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Research Products
(3 results)