2008 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
19520210
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
藤井 たぎる Nagoya University, 大学院・国際言語文化研究科, 教授 (00165333)
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Keywords | 例外状況 / 価値形態 / 美的判断 / 12音技法 / 総音列主義 / 恐慌 / フィボナッチ数列 / 黄金比 |
Research Abstract |
シェーンベルクの12音技法は調性和声システムを解体するものではなく、むしろこのシステムをさらに合理化した結果であり、基本的には同一のマトリクスに基づいたものであること、またこのマトリクスは同時にマルクスの価値形態のシステムと共通のものであることを示した。具体的に言えば、このマトリクスは“y/x=x/(x+y)=a"という数式で表されるもので、この式の解が“a=(√<5-1>)/2"となるとおり、これはフィボナッチ数列をなしている。平均律の使用によって調性音楽が飛躍的な発展を見せることになる18世紀初頭からシェーンベルクによって12音技法が完成されることになる20世紀初頭(1920年代前半)までの、ほぼ200年間の音楽は、すべてみな同一のマトリクスに基づいており、またそれが価値形態のシステムとの相同性を有していることを明らかにすることで、西洋近代音楽と資本主義との具体的な相関性を浮き彫りにすることができたと考える。一方、第二次世界大戦後のいわゆる前衛音楽は、シェーンベルクの12音技法をすべてのパラメータに拡大させた総音列主義から出発しながら、やがてさきに示したマトリクスの解体をもたらすことになった。この解体は“音自体"の発見によってもたらされたものである。この"音自体"という概念は、アガンベンの言う「剥き出しの生」を髣髴とさせるようないわば「剥き出しの音」とでも言うべきものだが、このもはや記譜可能な記号としての音ではない“音自体"が従来の音楽的システムを根本的に崩壊させる現代音楽に特徴的な傾向と現代の「生政治」との相関性を明らかにした。また上述のような論を展開するにあたり、「専門的知識の提供」を作曲家下山一二三より受けた。とくに彼を招いて開催した大学間連携シンポジウムで、前衛音楽のいわば生き証人である下山の講演から、“音自体"のとらえ方に関して多くの示唆を得た。
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Research Products
(4 results)