2010 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
19520210
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
藤井 たぎる 名古屋大学, 大学院・国際言語文化研究科, 教授 (00165333)
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Keywords | 価値形態 / 音列 / マトリクス / オペラの"死" / 資本主義 / 境界侵犯 / 交換様式 / 貨幣 |
Research Abstract |
産業革命以降の資本主義の発展とともに調的和声音楽は成熟し、やがて合理化の果てにシェーンベルクによる12音技法へと行きつくことになったが、そうした資本主義社会のメカニズムと音楽システムの相同性を、当該年度においては以下の観点から考察した。 マルクスが『資本論』で論じている資本の自己増殖過程とアルバン・ベルクの独自の(すなわち師のシェーンベルクとは明らかに異なる)12音技法による音列の自己増殖過程の相同性を扱った。オペラ『ルル』(原作はヴェーデキント)は資本主義的な欲望の自己増殖とその崩壊の物語となっている。主人公ルル(およびルルの音列)は貨幣のように還流を続けながら、欲望の循環を作り出すが、最後には娼婦として消費され、この循環から消えてしまう。マルクスの言うように、価値は貨幣形態と商品形態を交互にとり、その交代のうちに自己を維持しながら拡大させていく自動的な主体であるとすれば、それはまたベルクが形象化してみせたルルにも当てはまる。『ルル』における基本音列もまた、それから派生するルルの音列やその他のさまざまな主要登場人物の音列の交代によってもたされる自動的な主体にほかならず、その意味で西洋近代音楽が徹頭徹尾資本主義的に構造化されてきたことを、楽曲と台本の分析によって明らかにしている。 このように基本音列を母型として捉えることで、ただ単に12音技法の音楽史における意味というだけではなく、またその歴史的・社会的文脈における意味をも浮き彫りにすることができたことは、当研究の大きな成果である。
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Research Products
(3 results)