2009 Fiscal Year Annual Research Report
ルネサンス期イタリアにおける活字印刷と英雄詩の文体との関係
Project/Area Number |
19520223
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
村瀬 有司 Osaka University, 世界言語研究センター, 准教授 (10324873)
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Keywords | イタリア・ルネサンス文学 / Torquato Tasso / アンジャンブマン / 騎士物語 |
Research Abstract |
本研究は、ルネサンス期イタリアの英雄詩の文体の変遷を、活字印刷の普及との関連において考察するものである。 今年度は昨年度に引き続き、研究対象の一つであるトルクァート・タッソの叙事詩『エルサレム解放』の文体の問題を検証した。タッソの叙事詩の形式的特徴として、アンジャンブマン(詩句の跨り)の多様が挙げられる。アンジャンブマンがどの程度使用されているかを明確にするために、この技法を定義づけ、テキスト内での使用頻度をカウントする作業を開始した。同時に、16世紀当時のアンジャンブマンに関する議論、並びにタッソ自身のこの技法に対する見解を再検証し、当時の詩人たちにとっては、複数のアンジャンブマンが連続する場合に際立った効果が生じると考えられていたことを確認した。研究に当たっては、この複数に跨るアンジャンブマンの派生箇所を特に重視して検証を行ない、作品の内容と技法の関係を踏まえながら使用頻度を整理している。その結果、タッソの作品については、アンジャンブマンは非常に多用されているが、連続使用されている箇所は限られていることが明らかになった。アンジャンブマンが2行以上連続して使用されていないということは、詩行が2行単位で完結しているケースが多いことを示唆している。つまりタッソの場合、詩行あるいは詩句は1行で完結することは少ないが、2行の幅で見れば概ね完結している。この2行単位の展開が、タッソの叙事詩のリズムとなっている。 また、アリオストの『狂えるオルランド』においても同様の観点から使用頻度を調査した。具体的には、タッソの作品と同じ程度の量となる前半24章を取り上げて、アンジャンブマンの使用頻度が非常に低いことを確認した。この調査結果については、タッソの作品のそれと合わせて慎重に吟味をしたうえで学術誌に報告をする予定である。
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