2009 Fiscal Year Annual Research Report
ヨーロッパ近代における「文化危機」の内実と母権論問題の解明
Project/Area Number |
19520228
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Research Institution | Tokai University |
Principal Investigator |
谷本 愼介 Kobe University, 国際文化学研究科, 教授 (10114555)
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Keywords | バーゼル・サークル / ニーチェ / バッハオーフェン / 母権制 / ワーグナー / ショーペンハウアー |
Research Abstract |
1.「バーゼル・サークル」の実態解明 19世紀後半、歴史家ブルクハルト、法制史家バッハオーフェン、文献学=哲学者ニーチェ、宗教家オーヴァーベックを中心として形成された、知識人たちのいわゆる「バーゼル・サークル」の実態を解明した。「バーゼル・サークル」についての先行研究としては上山安敏氏によるものがあり、氏はベルリンとバーゼルという対立設定によって本サークルを定義したが、私はさらに一歩踏み込んで、本サークルの精神的支柱としてショーペンハウアーと彼の哲学があったことを立証した。その中でバッハオーフェンの「母権論」も生み出されたこと、さらにはニーチェが当時は無名だったバッハオーフェンの著書からいくつもの重要概念を借用(盗用)して処女作『悲劇の誕生』を書きあげたことを立証した。「ディオニュソス的世界観」は「悲劇の誕生』における最も重要な概念だが、これがバッハオーフェンの「バッカス的世界観」の言い換えにすぎないことを発見、提起した。また当時ワーグナーはバーゼルから数時間の圏内にあるトリープシェンに居を構えており、ニーチェは頻繁にワーグナーを訪ねていることから、ワーグナーも広い意味での「バーゼル・サークル」の一員として考えるべき点を指摘した。 2.ニーチェの著作への妹エリーザベトの関与について 私の長年にわたる研究パートナーである、ドイツ・バイロイトのワーグナー博物館前館長マンフレート・エーガー博士の大著『ニーチェのバイロイト受難劇』を翻訳する過程で、ニーチェの妹エリーザベトがいかに兄の文章を改竄したかについて、貴重な示唆を得た。たとえばワーグナーの死後、ニーチェはバイロイト祝祭劇の後継者として名乗りを上げようとしていたことが遺稿から読み取れるが、妹はその部分を削除し、今日ニーチェの日本語訳ではこの改竄版しか読めないというお寒い現状を暴露した。
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Research Products
(1 results)