2009 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
19520230
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Research Institution | Nara Women's University |
Principal Investigator |
吉田 孝夫 Nara Women's University, 文学部, 准教授 (40340426)
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Keywords | ホレ / 近世 / 山姥 / グリム / ギンズブルグ / ポイカート / 日本霊異記 |
Research Abstract |
本研究は、中世末期・近世以降のドイツ語圏に伝えられる鉱山・山岳伝説を、ドイツ精神文化史に位置づける試みである。今年度は、ドイツの民間伝承に頻出する女の妖怪<ホレさま>をとりあげ、これを鉱山・山岳伝説の枠組のなかで捉えることを目指した。一般にはグリム・メルヘン第24番のイメージが先行するこの妖怪だが、起源的には、ドイツ・ヘッセン地方土着の山の女神である。同じグリムの『ドイツ伝説集』には、この<ホレさま>を含め、各地の山の女神に関わる物語が含まれており、これを主な素材として、ドイツの山の女神の姿を明らかにしようとした。1)まずグリムの神話学的著作によりながら、古代の冥府と豊穣の女神とのつながりを吟味し、2)次に女神から人間に与えられる贈り物のモチーフが、デュメジルのインド・ヨーロッパ語族研究に見える三機能構造説と合致しうる可能性を論じたあと、3)最後にシャーマニズム(ギンズブルグ)とインキュベーション(西郷信綱)の観点から、この山の女神が、人間の通過儀礼に関わる異界の存在でありうることを示した。しかしこのような古代との神話的連続性の主張は、ドイツにおいて、偏狭なナショナリズムと結びついた暗い歴史を持っている。論文の後半では、その問題の検討として、1)ナチズムとの関係をめぐるギンズブルグとデュメジルの論争の意味を考察し、2)グリム自身の観念的にすぎる古代崇拝と恣意的な文献操作を指摘して、その著作には、むしろ近世資料の比重が実に大きかったことを確認したあと、3)最後に、戦後ドイツの異端の民俗学者ポイカートを取り上げ、グリムと同様、文化的多様性の認識と<ドイツ的なもの>の探求との両極に揺さぶられる辺境出身のドイツ人の姿を追った。そして4)<ホレさま>と古代の女神との連続性も、最新の文献学的研究によって、実は非常に限定的な主張にとどまることを指摘した。
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Research Products
(1 results)