2008 Fiscal Year Annual Research Report
パスカル『プロヴァンシアル』の多角的検討と思想的背景に関する研究基盤の構築
Project/Area Number |
19520231
|
Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
永瀬 春男 Okayama University, 大学院・社会文化科学研究科, 教授 (60135100)
|
Keywords | 仏文学 / パスカル / プロヴァンシアル / ジャンセニスム |
Research Abstract |
本年度は、フランス国立図書館(BNF)における約一月間の資料調査をも踏まえ、以下の2つの作業を中心に研究を進めた。 第1は、作品『プロヴァンシアル』の詳細な読解であり、昨年度の初期4通の手紙の検討に続き、イエズス会の道徳批判を主題とする中期の書簡(第5の手紙以降)を考察対象とし、その成果を論文「『プロヴァンシアル』における「蓋然説」と「思慮」」により公開した。パスカルはイエズス会の道徳説、特にその「蓋然的意見の教説」を批判するにあたり、それを人間的・政略的な「思慮」だと論難した。「思慮」なる概念は、古代ギリシア(アリストテレス)に発し、中世スコラ学(トマス・アキナス)において徳論の体系中に位置づけられたものであるが、近代フランスにおいては政治論(為政者に必須の徳)、護教論(賭けの議論)、道徳論(蓋然説)という異なる3つの文脈のなかで再評価を受け、他方で厳しい批判にも遭遇した。蓋然説や「思慮」の称揚は、普遍的懐疑を特徴とするバロック的時代精神を共通の歴史的背景としてもっているが、「蓋然的なものでは満足できない」パスカルは、究極において「思慮」の概念を廃棄したのであり、そうした姿勢に『プロヴァンシアル』の道徳論と『パンセ』の呼応する点が認められる。小論ではこうした論点を明らかにした。 第2は、わが国における『プロヴァンシアル』研究のための基盤構築作業としての(1)書誌作成と(2)年譜作成作業の継続である。これらについては、昨年度の作業を引き継ぎ、BNFでの文献調査を通して幾つかの不明な点を明らかにするとともに、前年よりも詳細な資料とすべく努めたが、なお補うべき点が多い。最終年度の3年目には一層の充実を図り、研究成果報告書巻末3において公表したい。
|