Research Abstract |
1.フランス中世文学の代表的な作品の一つ『狐物語』のI写本(フランス国立図書館,フランス語写本,12584番)には,本文テクスト中に多数のミニアチュール(細密画)が挿入されている。反面,本文テクストは他の写本に比較して,割愛されている部分が多く,全体とすれば短くなっている。そこでこの写本を手がかりに,この写本の制作者の意図,どのような読者を想定してミニアチュールを多く挿入することにしたのか,すなわち,写本制作者の文学の場,読者の「文学の場」を検討するために,パリのフランス国立図書館へ行き,当該写本の細密画を中心に調査を実施した。この調査をもとに,当該写本が,読むことによらず聞くことによってのみ作品を鑑賞する人々とは異なって,細密画を見ながら読む人を意識して制作された写本であることから,前者の「文学の場」と後者の「文学の場」との間にはどのような差異があるかを明らかにしようと試みた。また,同写本の本文テクストの作者にあっては,その元となった親本を手に,割愛箇所の取捨選択をどのような基準で行なったのかを推定することを通して,作者の「文学の場」を明らかにすることを試みた。これらの考察をとおして,フランス中世における「文学の場」についてある程度考察を深めることができたが,まだまだ解明すべき問題は多く残されている。 2.中尾佳行・広島大学大学院教育学研究科教授,地村彰之・同文学研究科教授,楠戸一彦・同総合科学研究科教授,水田英実・広島大学名誉教授,同山代宏道名誉教授と,ヨーロッパ中世における「祝宴のについて,議を深め一書にまとめた。また,ヨーロッパにおける「リズム」について議論を行い,シンポジウムを開催した。その議論をもとに,文学の主題,モチーフ,具体的こはフランス中世文学にみる一日のリズム表現を考慮することによって,「文学の場」に新しい視点を加えることができた。
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