2007 Fiscal Year Annual Research Report
アルベール・カミュの世界-絶えざる価値探求と源泉への回帰-
Project/Area Number |
19520235
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
松本 陽正 Hiroshima University, 大学院・文学研究科, 教授 (90140558)
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Keywords | アルベール・カミュ / 『裏と表』 / 不条理 / 『異邦人』 |
Research Abstract |
「源泉」《source》という言葉をてがかりに、アルベール・カミュの初期作品群、とりわけ『裏と表』所収の『肯定と否定のあいだ』から「源泉」の具体的な姿をさぐった。カミュの「源泉」、それは黙して語らぬ母との絆を見出していく息子の姿であり、また、貧しい少年時代に他ならない。つづいて、「第一の系列」の作品群(『異邦人』『カリギュラ』『誤解』『シーシュポスの神話』)のメインテーマである「不条理」について考察した。『手帖』にあるように「不条理」は白紙状態、「ゼロ」地点ではあるが、(1)『異邦人』の結末部で幸福感に満たされるムルソーや、「シーシュポスを幸福だと思わねばならぬ」という『シーシュポスの神話』の最後の一文、(2)死を間近にして自己の生を肯定する主人公たち(ムルソー、カリギュラ、『誤解』のマルタ)の姿から、「不条理」の認識に、逆説的だが、生の肯定という積極的な価値が付与されていることを論証した。あわせて、「不条理」から「反抗」への移行は必然的なものであることも指摘した。従来、否定的に捉えられがちだった「不条理」にこのような肯定的な価値を認める視点は斬新なものであり、カミュの文学の本質が、絶えざる価値探求にあるという本研究の出発点を論証することができた。このような研究成果を踏まえ、次年度は、(1)絶えざる価値探求とともに「源泉」ヘの回帰願望も常に存在していたこと、(2)「反抗の系列」の作品群(『ペスト』『戒厳令』『正義の人々』『反抗的人間』)に見られる価値観についてさらに検討をすすめたい。
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Research Products
(3 results)