2008 Fiscal Year Annual Research Report
アルベール・カミュの世界-絶えざる価値探求と源泉への回帰-
Project/Area Number |
19520235
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
松本 陽正 Hiroshima University, 大学院・文学研究科, 教授 (90140558)
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Keywords | アルベール・カミュ / 反抗 / 正義 / 名誉 / 子供 / 無垢 / 『ペスト』 / 『正義の人々』 |
Research Abstract |
カミュ(1913-1960)の文学には、源泉への回帰願望、それと並行する絶えざる価値創造という大きな二つのうねりがある、と考えている。このような観点からの検証は今までにないものであり、「アルベール・カミュの世界-絶えざる価値探求と源泉への回帰-」としてカミュの全作品を捉え直し、3年間でまとめあげ、新たなカミュ像を提出すること、それが今回の目標である。 カミュは自己の作品をいくつかの「系列」に分類し、「第三の系列」の草稿までを残しているが、本年度は、「第二の系列」(反抗の系列)を研究対象とし、(1)源泉への回帰願望の軌跡、(2)絶えざる価値創造客と向かう軌跡、を考察した。 (1)については、『手帖』にある自伝的世界の作品化メモの痕跡を辿り、カミュが源泉への回帰の必要性を絶えず意識していたことを検証するとともに、1947年にスポットをあて、この年の意味について考察を巡らせ、カミュが初めてサン=ブリウーで父の墓参を行い、また全作品のプランを『手帖』に記す1947年が、1953年という原点回帰への決定的な年への大きなプレリュードとなっていることを検証した。 (2)については、「第二の系列」を構成している『ペスト』(1947)『戒厳令』(1948)『正義の人々』(1949)『反抗的人間』(1951)を中心に考察し、対独協力派粛清問題によって「反抗」や「正義」に立脚することが不可能になると、「名誉」を希求するようになること、さらにこの時期に初めて「子供」に対して重要な意味が付与されてくるようになることを指摘し、原点客の回帰願望と並行して、新たな価値観を絶えず模索し続けたカミュの姿を浮かびあがらせた。
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Research Products
(2 results)