2007 Fiscal Year Annual Research Report
オースティンを中心とした18世紀イギリス小説の医学文化論及びジェンダー論的研究
Project/Area Number |
19520237
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Research Institution | Yamaguchi University |
Principal Investigator |
武井 暁子 Yamaguchi University, 教育学部, 准教授 (00403634)
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Keywords | 18世紀イギリス小説 / ジェンダー / 医学史 |
Research Abstract |
オースティンの全テクストを精査し、上にあげた身体症状の具体例を抽出して、電子データとして整理した結果、女性の食について着目するにいたった。オースティンの10代の頃の習作では、若い女性の大食が実にあっけらかんと書かれており、女性の旺盛な食欲は単に生理的欲求というだけでなく、当時女性の美徳として挙げられた控えめ、しとやかさといった女性の美徳への反抗の表れとして機能する。ところが、オースティンが成人になってから執筆された作品では、小食を誇らしげにアピールする女性が登場し、「食べてはいけない」という社会からの抑圧が、女性の意識の中で「食べない」という自発的行為として置換えられ、「食べられない」拒食症状を引き起こすメカニズムが描かれている。この着想を得た後、拒食症について初めて明確な記述をしたといわれるウィリアム・ガルの論文(1873年刊行)、カレン・カーペンターの拒食症の分析をし、オースティンのテクストを再読したその結果により、現代の拒食症に通じる問題点を明らかにすることができた。 次に、『サンディトン』の主題である、海岸保養地の開発について、オースティンの主要作品が執筆された1810年代の後半の南東イングランド海岸地帯の地図、当時の地主の特質を分析したミンゲイなどの研究書を読み、漠然とした不安や身体的不快症状を訴えることが流行になり、それを治療しつつ娯楽を提供する海岸保養地の誕生の必然性を精査し、病が商品化される過程を明らかにした。成果の一部を日本英文学会と日本オースティン協会の大会で発表した。 本研究の基礎を一層強固にするためには、女性の身体的器質的虚弱さについて著述した18世紀の医学テクストを収集整理する必要がある。そのため、9/15-9/25まで大英図書館等で資料収集と調査を行った。
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