2008 Fiscal Year Annual Research Report
トランスナショナルなものをめざす文学的企てーーフォークナーと中上を軸として
Project/Area Number |
19520248
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Research Institution | Nagoya City University |
Principal Investigator |
田中 敬子 Nagoya City University, 大学院・人間文化研究科, 教授 (70197440)
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Keywords | フォークナー / 中上健次 / サンドラ・シスネロス / ポストコロニアリズム / ポストモダニズム / トランスナショナル / 家父長制社会 / ノマド |
Research Abstract |
平成20年度は、家父長制社会に反逆したウィリアム・フォークナーと中上健次という二人の男性作家に対し、第3の視点として、サンドラ・シスネロスというメキシコ系アメリカ人女性(チカーナ)作家の家父長制社会に対する抵抗を考察した。フォークナーは南部白人男性、中上は部落民出身としてそれぞれ故郷に執着しつつ、他方、南部社会と日本社会を超える方法を模索する。一方シスネロスは、アメリカ合衆国ではマイノリティ、メキシコ文化の中では男尊女卑の差別を経験しつつ、土地に対する執着と離散、ノマド体験を基礎に家父長制社会に対抗している。論文“Short Story Sequences and the Narrative Strategy of Minority Literature: Kenji Nakagami and Sandra Cisneros"においては、中上の短編集『熊野集』とシスネロスの短編集woman Hollering creek and Other Storiesを比較し、伝統文化が育む家父長制ナラティヴに対し、中上、シスネロスがそのような伝説、神話をどのように脱構築するか、また、ポストコロニアリズムにくわえ、物語の脱構築、言語の独立性というポストモダニズム的な批評のパラダイムが、中上、シスネロスの短編集のトランスナショナルなものを目指す戦略解明にともに有効であることを示した。この論文の主旨はより短縮した形で、科研費で出張したハワイでの第7回International Conference on Arts and Humanitiesにて研究発表し、ガルシア・マルケスの研究者や、ジェンダー批評研究者たちと有意義な意見交換を行うことができた。またフォークナーについては、トウェイン協会のシンポジウムでの発表を論文にまとめ、フォークナーの語りのヒューモアが、トウェインとも比較しうる詐欺師の脱構築的な語りとして戦略化されていることを明らかにした。
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