2008 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
19520249
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Research Institution | Kyoto City University of Arts |
Principal Investigator |
柏木 加代子 Kyoto City University of Arts, 美術学部, 教授 (10128689)
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Keywords | 仏文学 / 自然科学 / 文学論 |
Research Abstract |
フロベールの作品が19世紀ヨーロッパ自然科学の潮流に即し、それを先取りした文学であったことは、出世作である『ボヴァリー夫人』(1857)に描出された膨大な医学知識の分析によって裏打ちされている。当時の医学界においては、二つの相反する見解、つまり「生気論」(身体の自然な活動は特別な力、一般的には「生命力(生気)」と呼ばれ、生気は物理的法則に反して作用する)と「生体論」(すべての生命は物理学的原因によって完全に説明がつく)が拮抗していた。未刊の遺作『ブヴァールとぺキュシェ』(1880年)では、フロベールは19世紀フランス医学界が面した諸問題を「自然科学の領域」に拡大して科学情報の補充をおこなった。今年度は、とりわけ『ブヴァールとペキュシェ』第3章に主眼を置き、フロベールの自然科学に関する知識を整理し、文学に緻密に取り入れられた膨大な科学文献(化学、解剖学、生理学、骨相学、天文学、博物学、地質学)の是非を、物品費で購入した資料・文献を基に研究を重ね、19世紀末における、文学と自然科学の相互関係を分析した。 フロベールがブヴァールとペキュシェに体験させたのは、エクリチュールによる生体論と生気論の両価性を露呈させることである。科学台頭の舞台であった19世紀に、科学者によって自然の中に解放され暗中模索する人間の姿を、フロベールは、人間の中に自然を見る文学者のまなざしで分析し、発展途上の科学を人間性の外部環境としてのありのままに描き出した。
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Research Products
(5 results)