2009 Fiscal Year Annual Research Report
保守革命の「前期」「後期」におけるドイツ語詩人・作家の「理想的国民」像
Project/Area Number |
19520250
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Research Institution | Kyoto Prefectural University |
Principal Investigator |
青地 伯水 Kyoto Prefectural University, 文学部, 准教授 (10264748)
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Keywords | ドイツ文学 / 保守革命 |
Research Abstract |
ホフマンスタールのおくった青春時代に、人間理性はルネサンスや宗教改革以前に存在した神の統べる全体性を完膚無きまでに崩壊させ、支配力をいっそう強め、形而上世界を無に帰した。その結果、ヨーロッパ文化は土台を支える根底を失い、秩序をもはや見出せなくなり、分裂衰退へと向かっていった。ホフマンスタールはわずか一八歳になるやならずやで、『ティツィアーノの死』においてヨーロッパ文化衰退の契機をフランス革命ではなく、一六世紀末に見出し、その時代に照準をあわせて創作を重ねた。彼はその後『チャンドス卿の手紙』において、形而上世界の残滓が、二〇世紀のモデルネの世界に「あたかも裏口を通ってのように」到来を告げ、反動を形成する様を描く。その反動は、神秘的な様相を帯び、沈黙の言語となって、すべての事物との交流を通じて、失われた全体性の回復を言語においてめざしていた。 『チャンドス卿の手紙』が描いた過程であるヒエログリフの崩壊に始まり、神なき世界の苦悩、沈黙の言語による全体性の回復志向こそが、『著作』講演に語られた「あの一六世紀の精神革命に対するひとつの内的反動として始まった」過程である。ホフマンスタールは『ティツィアーノの死』に始まり、『チャンドス卿の手紙』をへて、『著作』講演にいたるまで一貫して、人間理性の展開に対抗する、一六世紀への反動に始まる非合理的過程を描き続けた。すなわち、ホフマンスタールの作品系譜こそが、『著作』講演において「保守革命」と呼んだ過程にほかならないのである。ホフマンスタールは、この「保守革命」過程のうちに著作によって国民の精神空間のなかに社会の全体性が逹成されることを夢み、目指したのであった。
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Research Products
(5 results)