2008 Fiscal Year Annual Research Report
初期印刷本期にみる作者と印刷家による協同出版活動の出現に関する研究
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19520253
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Research Institution | Fukuoka Women's University |
Principal Investigator |
向井 剛 (向井 毅) Fukuoka Women's University, 文学部, 教授 (40136627)
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Keywords | 初期印刷本 / 書物出版史 / ド・ウォード / ピンソン / ボンド / Pylgrimage of Perfection / 書誌学 / Directory of Conscience |
Research Abstract |
前年度の調査と新たに実施した調査にもとづき、下記のような成果を得ることが出来た。 1.ピンソン第1版に観察される本づくりの乱れを全篇にわたり記述し、印刷途中における著者介在(序文や目次、原稿を追加する著者の態度)を措定した上で、この<乱れ>を印刷現場と著者との連携の観点から解釈した。 2.ド・ウォード改訂版の奥書には、「丁寧に訂正を施した」の記述が見られるが、第2版の改訂ぶりを著者と印刷家の協同の観点から解明した。 3.本来サイオン・アベイのために書かれたはずの書物が、読者(顧客)を拡大するために、印刷家と著者の協同のもと、序文の改訂、木版画の使用、或いは本づくりにいかなる工夫が凝らされたのかを出版戦略の観点から解釈を試みた。同時に、著者W.ボンドには読者拡大を示唆するタイトル・ページの変更を試みた宗教書The Directory of Conscien ce (1527;1534)があり、両者に伺える共通点を考察した。 4.現存するコピーに観察される、読者反応としての書き入れや欄外注釈等を記述し、本書の受容ぶりの一端を明らかにした。 以上のように、宗教書に関する連携出版の事例を見出し、一宗派の書物が連携出版により読者層を拡大する出版戦略誕生の実例を観察することができた。本研究に見た宗教書のジャンルにおける協同ぶりを、文芸書や実用書の協同出版事例とともに総合的に当時の出版事情を解明する作業が今後の課題である。
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