2010 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
19520256
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Research Institution | Kyoritsu Women's University |
Principal Investigator |
水之江 郁子 共立女子大学, 国際学部, 教授 (40229711)
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Keywords | イギリス文学 / アイルランド文学 / ケルト文化 / アイルランド史 / アイルランド女性史 / 英愛文化史 |
Research Abstract |
イングランドとアイルランドの両社会に身を置き、両文化のあり方を、創作を通して、またその生き方を通して、示していたエリザベス・ボウエンに関する論文を纏めることが、最終年度の課題であった。ボウエンを追うことで、イングランド・アイルランド両社会の文化関係を考察したいと思った。 ボウエンは、1899年に生まれ、20世紀とともに歩んだ女性作家として人気を博したが、その後戦後を抜け出して自由放逸に向かう社会では、几帳面でとりすました印象を与える面があるため看過されがちであった。近年の再評価は、生誕100年の作品再読再評価の機運もあるが、種々の随想等が新たに編纂・出版されたこと、特に30年間にわたり毎週恋人に宛てて書き綴られた手紙が2008年に初めて公刊されたことなどが、要因となっている。 2008年に参加したダブリンのロイヤル・アイリッシュ・アカデミーにおける学会で、「アセンダンシー階級」と「大きな館」が中心的テーマとなっていたことは既に報告済みであるが、同学会でボウエンも採り上げられていた。アイルランド文化に生まれて、イングランド文化(ケルト文化の流れを汲み、その再生に力を入れる地域をいくつも内包する「イギリス」よりも、その支配的地位から「イングランド」という区分がふさわしい)で教育を受け、両者を行き来したボウエンには、イングランドとアイルランドの狭閉に身を置くためのあらゆる経験が降りかかってきた。特に二度の大きな戦争と、その間にはアイルランド独立運動や内戦も体験し、両者間にかつてないほど緊迫した状況を作り出していた時代である。ボウエンが、創作で表現し、実生活で体現する両文化の相克は、問題点を明確にし、それに対する展望も示唆していると思われた。
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