2007 Fiscal Year Annual Research Report
初期近代イングランドにおける民衆文芸に関する学際的研究
Project/Area Number |
19520264
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Research Institution | Japan Women's University |
Principal Investigator |
佐藤 和哉 Japan Women's University, 文学部, 准教授 (00235326)
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Keywords | チャップブック / 民衆文化 / 初期近代イングランド / 読書 |
Research Abstract |
本研究の中心的な史料である「物語集」と呼ばれる小冊子群は,出版,流通,受容(読書)のどの局面についても情報が少ないことからきわめて扱いにくい史料である。しかし,そのなかでも比較的まれではあるが,ダイシーという印刷出版業者の一族は18世紀ロンドンで「物語集」を出版していたことで知られていて,業者が特定できるところから,歴史研究の一つの足がかりとなりうるものと考えられる。今回,ブリティッシュ・ライブラリーおよびオクスフォード大学ボードリアン図書館での調査によって,ダイシー社が出版していた「物語集」のうち94点を確認することができた。印刷出版業者が確認されるテクストを確定することによって,当時の出版文化の文脈のなかで「物語集」の占める位置を考えるうえでの手がかりができたと言える。 受容の点では,「物語集」に頻出する登場人物「巨人殺しのジャック」に着目し,この人物の登場する「物語」の初出が1710年代よりもさかのぼらないのにも関わらず,オンライン版『18世紀出版カタログ』(ECCO)の全テクストデータベースを用いて検索することによって,「ジャック」への言及が40年代の教育書,60年代の小話集,世紀末のエドモンド・バークの伝記,などさまざまなテクストのなかで為されていることを発見した。「物語集」の登場人物がいわゆる「エリート文化」の領域に属するテクストにも現れることをつきとめたので,「民衆向け」とされるテクストの受容の様態を考えるうえでの有力なヒントとなりうる。 これらの研究はいずれも民衆向け出版物,ひいては民衆文化史研究のための基礎的作業としての意義を持つ。なお,今年度は,同時代のほかの種類のテクストとの関連について調査する作業が当初のよていよりも進まなかったため,次年度への作業はこの点に重点をおきたい。
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Research Products
(1 results)