2008 Fiscal Year Annual Research Report
初期近代イングランドにおける民衆文芸に関する学際的研究
Project/Area Number |
19520264
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Research Institution | Japan Women's University |
Principal Investigator |
佐藤 和哉 Japan Women's University, 文学部, 准教授 (00235326)
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Keywords | チャップブック / 民衆文化 / 初期近代イングランド / 読書 |
Research Abstract |
今年度の研究は大きく三つの焦点を持つ。第一は、理論的な側面における進展である。今年度は、歴史学以外の分野からの示唆を多く得た。たとえば、文化人類学においては口承文化と文字文化の関係についてすでに研究の蓄積があるが、それを、本研究がテーマとする初期近代イングランドにおける民衆向け出版物を研究する際に応用できないか、モデルケースについて考え始めている。また、そのような出版物に顕著な特徴の一つに、英雄譚が頻出することが挙げられるが、「英雄像」の研究は神話学、民俗学、文学、それに歴史学など領域横断的に取り組まれるべきものであり、その点でも研究のなかに学際的視座を設定することができるようになった。 第二に、民衆向け出版物の系譜の問題である。一般にこれらの出版物においては作者が明確でないことが多いが、一つ一つの作品について精査すると、16、17世紀の作家の手になるものを散見することができる。リチャード・ジョンソン(1573年生-1659年没?)やマーティン・パーカー(1656年没?)、それにトマス・デローニー(1543年生?-1600年没)などがそれにあたり、いずれもいわゆる英文学上の「正典(キャノン)」を作り出すような作家ではなかったが、一般読者には広く親しまれたようである。これらの作家から18世紀の民衆向け出版物の系譜をたどることはいまだに行われていない仕事であり、その端緒を開くことができた。 第三に、19世紀における民俗学の高まりのなかで、18世紀の民衆向け出版物は尚古的関心からもっぱら取り扱われてきたため、その後の歴史学研究者が正当にその学問的評価を下してきたとは限らなかった。今年度の資料収集の過程において、これまで素人の趣味的な研究、言及とされてきた、ヴィクトリア朝に出版された民俗学的テクストのなかに重要なコメントを発見することができたので、これらをあらためて読み、その今日的意義を考えるようになった。
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