2008 Fiscal Year Annual Research Report
ポール・ロワヤルとジャンセニスム:霊性と読者層からみた両者の相関関係
Project/Area Number |
19520265
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Research Institution | Musashi University |
Principal Investigator |
望月 ゆか Musashi University, 人文学部, 准教授 (30350226)
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Keywords | ジャンセニスム / ポール・ロワヤル / フランス17世紀 |
Research Abstract |
ポール・ロワヤルではジャンセニスム論争開始以前に、改悛、信仰、愛をそれぞれ主題とする三部作の出版計画が進んでいた。最終的にはプロジェクトは放棄され、改悛に関する『頻繁な聖体拝領』(1643年)のみが1643年に出版される。信仰に関する『キリスト信仰の必要性』は1701年に死後出版されたが、愛に関する著作は未完に終わったため、従来その存在すら指摘されてこなかった。本研究ではまず、これら三論争書の執筆から放棄に至る過程(1641年〜1643年)や共同執筆の詳細を、サン・シランや著述にあたったアルノーらの書簡から明らかにした。本三部作は聖職者と敬虔派の一般信徒を主たる読者層としており、神学者に向けられたジャンセニスム恩寵論争とは異なる。この違いを端的に示すのが、『頻繁な聖体拝領』論争の契機となったゲメネ公爵夫人の存在である。ゲメネ夫人は当時の大貴族の例にもれず奔放な性生活を送っていたがある時回心し、ポール・ロワヤルの霊的指導を受けるようになる。獄中のサン・シランから夫人に送られた10通余りの手紙はその量・内容ともに改悛と愛についての重要な文献である。しかし夫人は結局以前の生活に逆戻りしてしまったため、この霊的書簡は研究者の注意を引いてこなかった。本研究では、ゲメネ夫人の真摯な回心の経緯を1641年から1643年までメール・アンジェリック、サン・シランの書簡から克明に追うと同時に、その回心と『頻繁な聖体拝領』執筆経緯との関連を明らかにした。霊性については、論文発表には至らなかったが、放棄された三部作では、神の恩寵の絶対性を強調する恩寵論争とは一見相反する霊性が全面に打ち出されていることが明らかになった。改悛(聖体からの一時的遠ざかり、沈黙、喜捨、祈り、病や苦しみ)を通しての人間側からの神への働きかけを強調する主体的霊性である。
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