2008 Fiscal Year Annual Research Report
都市の食卓-ドイツ近現代文学から探る飲食儀礼と変容する都市空間
Project/Area Number |
19520277
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
柏木 貴久子 Kansai University, 外国語教育研究機構, 准教授 (70411494)
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Keywords | ドイツ文学 / 近現代文学 / 都市論 / 民族学 / 民俗学 / 比較文学 |
Research Abstract |
本課題は文化研究としての文学研究という立場から、文化実践としての飲食をとりまく事象に着目し、これを社会のダイナミズムが凝縮してあらわれる「都市」という空間において考察する。食と都市空間と文学テクストその際飲食の場として、本年度は、トーマス・マン作品を契機とした19世紀末から20世紀初めにみられる都市型ガストロノミーの発達、家族の食卓から個食の時代への移行についての考察に続き、荒廃と再生のエネルギーを併せ持つ第一次大戦後第二次大戦前の大都市を描いた作品、とくにアルフレート・デブリーンの『ベルリン・アレクサンダー広場』を中心に分析した。都市文学および犯罪小説の代表といわれるこの作品は、非常に複雑かつ巧妙なかたちで、飲食事象のなかに、社会・道徳問題を取り込んでいるが、この点は今まで注目されていなかった。本年度はこれを論文にまとめた。また飲食モチーフ、聖書引用に関しドストエフスキーの犯罪小説『カラマーゾフの兄弟』との共通点を多く見いだした。これについては作成したデータをもとに考察を継続する。 理論に関しては、社会学系の都市論、建築論に続き特にドイツにおけるパフォーマンスと演出性についての芸術文化・文学理論を詳しくみた。ヨーロッパの芸術・美学論争における五感のうち「視覚」への興味の強さを認識した。他方カント、デリダの触覚論にあたりながら、滋養吸収する身体が他者との関係、つまり社会的関係のなかで形成されることについて考察した。これら身体論と生物学におけるオートポイエーシス理論との融合を二つの観点、すなわち摂取する存在としての人間の身体論と都市身体論から試みてきた。これについてはオートポイエーシス論の公汎な適用についての批判的な見方もあることをふまえ、理論の充実を図る。
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