2007 Fiscal Year Annual Research Report
ステファヌ・マラルメ演劇論と「共和国」の関係についての研究
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19520280
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Research Institution | Kobe Women's University |
Principal Investigator |
中畑 寛之 Kobe Women's University, 文学部, 非常勤講師 (70362754)
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Keywords | ステファヌ・マラルメ / ワーグナー / フランス第三共和制 / 世紀末 / 演劇と国家 |
Research Abstract |
本年度は、SoubiesのAlmanach des spectaclesを中心に、まずは1880年代にパリで上演された芝居・演奏会等の情報を電子化し始めた。研究者の利用に供するため、多様な有用性を考慮しつつレイアウト等を確定し、できるだけ早い公開を考えている。このデータ・ベースは、同時代の劇評などの書誌的資料によって補完し、今後も随時情報の更新・修正を予定している。 また、後期マラルメの出発点を画す彼のワーグナー論を採りあげ、そこに現れてくる「国家」「国民」といった政治的側面の読解を試みた。「社会的矮小化の代償として〈国家〉に要求する権利」として演劇を捉え直すマラルメは、戦禍とコミューンの騒乱によって廃墟と化したパリに半ば強引に居を定めたそのときから、新しい「共和国」のあり方を〈詩人〉の立場からじっと見つめ続けていたにちがいない。「演劇についての覚え書」を書く彼は、それゆえ、1885年以降、政治的にはなんとか機能し始めた第三共和制に対する期待と失望を、演劇の批評を通して、演劇の問題性に限定して、語っていく。そのエクリチュールには、90年代に遥かに多面展開される詩人の〈行動〉の種があちこちに播かれ、すでに芽吹いており、それはとりわけワーグナーを召喚する批評=危機の場に見出される。パナマ事件やアナーキストの爆弾事件などが演出する国家の危機を舞台に、政治と言語の問題(より正確には言語の政治学というべきもの)を通して、文芸(lettres)に宿る〈フィクション〉の力を読者(public)に意識させ、言語への信を取り戻させることで人間の社会的基盤を再編しようとする批評詩の試みへと発展していく批判精神がそこに見出せる。ワーグナーとは、『ディヴァガシオン』の著者にとって、その思考の賭金として、美学的だけでなく、政治・社会的にも重要な存在であったことを論じた。
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