2007 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
19520281
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
増本 浩子 Kobe University, 人文学研究科, 准教授 (10199713)
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Keywords | ドイツ文学 / 現代スイス文学 / デュレンマット / 国際情報交換 / ドイツ:スイス |
Research Abstract |
本研究の目的は、多言語・多文化の国スイスのナショナル・アイテンティティをめぐる政治的言説と文学との関連について考察することである。19年度の課題は、現代作家フリードリヒ・デュレンマットのスイス論を分析・考察することだった。主な分析対象は、スイスに関するエッセイ集『私のスイス』と、対談集『迷宮としての世界』で、これらのテクストの中でデュレンマットがスイスの多言語・多文化主義に対してどのような立場を取っているかを重点的に考察した。その際、デュレンマット研究の第一人者ペーター・ルスターホルツ教授(ベルン大学、スイス)やナショナリズム研究に造詣の深いゲオルク・ヴィッテ教授(ベルリン自由大学、ドイツ)等と意見交換する機会が得られたことは、非常に有意義だった。その結果、次の3点が明らかになった。 1.デュレンマットの考えでは、小国家の集合体としてのスイスは非常に現代的な国家形態を有し、ヨーロッパの未来を先取りするモデルとなっている。 2.スイスは人工的に作られた国であり、「スイス民族」は存在しない。 3.デュレンマットはスイスが多言語・多文化の国であることは認めているが、4つの公用語と文化が共生する国であるというのは神話であると考えている。なぜなら、実際にはそれぞれの言語圏・文化圏はお互いにほぼ無関係な状態で併存しているに過ぎないからである。 1291年の建国以来保持され続けているスイスの国家形態が実は非常に現代的なものであり、そのような形態をもつスイスがヨーロッパの未来を先取りしているとする発言を、デュレンマットがEU発足のはるか以前にしていたことは、非常に示唆に富む。今年度の研究と関連して、2008年8月に開催されるアジア・ゲルマニスト会議(日本独文学会主催)では分科会「言語政策と文化の越境性」の座長を務めることになっており、そこで多言語・多文化主義に関する議論を深める予定である。
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