Research Abstract |
手話は元来,文字をもたない言語であるが,最近,手話の文字化に関する研究が始まった。一現在提案されている手話文字の中でもっとも有効と考えられるのは,バレリー・サットンが1974年に考案した「サットン手話文字システム」(SSW:Sutton Sign Writing)である。SSWはアメリカ手話をべースにレて考案された表記法であるが,身体の形,手の形,手の動き,手の位置,顔の表情,句読点などを正確に表記できる。このシステムを日本手話の表記にも応用したところ,文字システムとして十分に機能することがわかった。 欧米では,この手話文字の有効性が手話研究者やろう教育関係者の間で認識され始め,まだ数は少ないものの,いくつかのろう学校ではSSWをろう児の読み書き能力の向上に役立てている。本年は,サットン氏の推薦を受け,SSWを便用するろう学校の一つ,オスナブリュックろう学校(ドイツ)を訪問し,ろうの生徒がSSWを学ぶ様子を観ながら,その指導法と成果にっいて情報を収集した。 オスナブリュックろう学校の教師ヴォルマン氏(Stefan Woehrmann:聴者)は6年ほど前からSSWを使用してろう児のことばの学習能力向上に努めている。その教育法は,SSWで表記した教材を積極的に使用するとともに,パソコンによるSSW表記のシステムを活用し,生徒自身がSSWによる文書を作成するよう指導している。また,彼独自の方法としては,SSWの要素に含まれる顔の表情シンボルを利用し,音声言語(ドイツ語)を発音するときの口形を表記してろう児の発話指導に活用している。これにより,生徒はドイツ語の発音はもとより,英語などさまざまな外国語の発音を学習することが可能になった。今後は,SSWのシステムの普遍性を高める研究と平行して,日本における手話文字教育のあり方に関する某礎的な研究を継続する。
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