2008 Fiscal Year Annual Research Report
日・仏・ルーマニア語対照による与格の認知機能的研究
Project/Area Number |
19520345
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
林 博司 Kobe University, 国際文化学研究科, 教授 (40135819)
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Keywords | 二次述語 / 分離(不)可能性 / 拡大イベント / 受影性 / 主題性 / 心的与格 |
Research Abstract |
本年度は、前年度の成果を基に、ルーマニア語の拡大与格、及び拡大与格の一種である心的与格と日本語の対応物である「あんた」についての分析を行った。フランス語の拡大与格は、1.達成タイプをプロトタイプとする二次述語を持つ文にしか出現できない、2.拡大与格の係り先は原則的に、自動詞構文では主語か前置詞句の名詞、他動詞構文では直接目的語である、3.分離(不)可能性は特に非プロトタイプ二次述語の場合、制約として働く、のに対してルーマニア語では、1.拡大与後は全てのタイブの述語を持つ文に出現できる、2.拡大与格の係り先は文法関係より語用論的要因によって決まる、3.分離(不)可能性は拡大与格出現の可否には影響を与えないが、係り先に複数の可能性がある場合は分離不可能所有物が優先される。この両言語の違いを説明するため、「拡大イベント」という概念を提唱し、仏語では拡大与格が主イベントに統合されて拡大イベントを形成する際、その統合は「受影性」に基づいて行われるのに対してルーマニア語ではこの他に「主題性」の高い所有性に基づいて行われるため、仏語に比べて広範囲に拡大与格が出現できると結論づけた。また、これまで余り研究が行われてこなかった「心的与格」も取り上げた。拡大イベントに統合されるときに重要な役割を果たす「とっかかり」を全く持たない心的与格は、仏・ルーマニア語ではあくまで命題内に留まってのステイタスを保持するのに対して、日本語の「あんた」は命題の外に出ていわゆる文修飾の副詞として命題全体と関わりを持つ、と主張した。これは、日本語はコトを中心に物事を叙述する傾向が強いのに対して、英・仏語はモノを中心に叙述する傾向が強いという類型的問題に関わってくることを明らかにした
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