Research Abstract |
本年度は,英語の分裂文を取り上げ、談話における認知的、語用論的機能と特性について考察した。とくに,分裂文の焦点に生起する要素に着目し,副詞相当語句(adverbial)のうち付加詞と下接詞をとりあげ,どのような条件の下にit分裂文の焦点として生起できるのか,意味論,とくに中右(1994)の階層意味論の立場,及び認知語用論の立場から考察を進めた。 中右(1994)は「焦点化されうる要素,つまり焦点部位は,命題内容成分であって,モダリティではない」という一般化を提唱している。しかし,頻度副詞がモダリティ成分としてit分裂文の焦点位置に生じている例が存在することが知られており,この一般化の反例となるが,中右(1994)は「理論的には,命題領域からモダリティ領域への認知転換が起こっている」と述べている。しかしながら,中右(1994)は,命題領域からモダリティ領域への認知転換について,これ以上踏み込んで議論をしていない。 本研究では,分裂文の焦点に生じる付加詞,下接詞の分布を詳細に検討することによって,領域の認知転換について,命題領域からモダリティ領域への認知転換だけでなく,モダリティ領域から命題領域への認知転換が存在することを明らかにし,「制限下接詞onlyによって焦点化することができる付加詞,あるいは下接詞は,発話内でモダリティ成分(モダリティ領域)から命題内容成分(命題領域)への認知転換が可能である。」ことを実証的に検証した。さらに分裂文の総記的含意と認知転換について新たな提案を行った。 本研究は,分裂文の焦点に生じる副詞相当語句をめぐって,これまで明らかにされてこなかった命題領域とモダリティ領域の認知転換について,双方向に認知転換が可能であること,及びその意味論的・認知論的メカニズムを実証的に検証したという点で意義のある研究であるといえる。
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