2009 Fiscal Year Annual Research Report
国家神話としての「北方領土」形成プロセスおよびその日ロ交渉への影響メカニズム
Project/Area Number |
19520576
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Research Institution | Iwate Prefectural University |
Principal Investigator |
黒岩 幸子 Iwate Prefectural University, 共通教育センター, 准教授 (80305317)
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Keywords | 北方領土問題 / 根室 / 南クリル / 国境 / 北方領土返還運動 |
Research Abstract |
本研究は、領土問題の当事者の立場に焦点を当てながら、国是としての北方領土返還論が確立し、「北方領土」の国家神話が形成されたプロセスを明らかにすること、さらには、冷戦期に構築された国家神話「北方領土」が、ポスト冷戦期の日ロ領土交渉の進展を阻んでいるメカニズムを解明することを目的としている。 本年度は、北大スラブ研究センターを中心に行っている「国境フォーラム」およびその論文集刊行の共同作業の中で見えてきた日本のほかの国境自治体の問題との比較で再度根室を検証した。 地方自治体としての根室市の領土問題に対するスタンスは、日本政府と次第に乖離して、経済低迷の中で地元の利益が優先される傾向にある。 ロシア側の北方領土に対する見方は、サハリン州に領土保全をスローガンにしたナショナリズムの台頭が見られるのに対し、ロシア中心部では千島列島を地政学的な視点から見て戦略的価値の位置づけを試みようとする動きが新しい。 3年間の研究で、日本の固有領土論、ロシアの戦争獲得領土論など、双方で国家神話としての領土観が統治者の作為・不作為に寄って形成され、冷戦後に解決に向けた調整が必要であった日ロ間の距離は、縮まっていないことが明らかになった。日本は、千島と北海道の近接性や第二次世界大戦末期以降の日ソ関係だけをとらえて領土の復帰を主張するのに対し、ロシア側はグローバル化の中で地政学的効率に基づく国家利益を重視して領土問題を新たにとらえようとしている。かかる両国の北方領土に対する見方の相違は、外交レベルで共有されていない点が問題である。
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