2008 Fiscal Year Annual Research Report
環境歴史学からみた「森」と「原」「野」に関する研究-日本の古代・中世を中心に-
Project/Area Number |
19520587
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Research Institution | Beppu University |
Principal Investigator |
飯沼 賢司 Beppu University, 文学部, 教授 (20176051)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
浅野 則子 別府大学, 文学部, 教授 (50299682)
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Keywords | 森 / 野 / 狩猟 / 牧 / 野焼き / 火葬 / 歌 / 田 |
Research Abstract |
本年度は、農村部と都市部に広がる「森」と「野」の比較をしながら史料的検討と現地調査を実施した。農村部としては19年度に引き続き、阿蘇下野狩の史料(永青文庫本『下野狩日記』『下野狩旧記抜書』)の翻刻作業とその現地調査を行い、中世阿蘇神社の神事体系のおける「下野」の「野」と「森」の存在の意義をほぼ明らかにできたと考える。阿蘇山の西麓に広がる「下野」と呼ばれる「野」は、天正6年まで旧暦の2月の卯日に狩神事が行われてきた。この神事は阿蘇の春を開始する祭礼であり、そこでは、古来狩の前に野焼きが行われ、獣を火で狩猟場の三カ所の「馬場」に集め、肥後に広がる社領から勢子・狩人3500人を動員し、騎馬70〜80頭で猪・鹿や小物を射止めた。多くの人々がこれを見物し、この神事は殺生の神事であるが、矢に当たった獣は往生を遂げ、後に神官に生まれ変わり、見物人も参加者も獣の往生を見て、その功徳に預かれるとも説く。さらに、狩の終わった後は、この「馬場」には、阿蘇神社の神馬が放牧され、12月の神馬貢納まで育てられた。この牧は「鷹山の牧」とも呼ばれた。鷹山は「下野」一帯の「森」を指す言葉で、「鷹山」は同じ2月に行われる田作神事の際に歳祢の神のもとに訪れる姫神の住む山でもあった。春の阿蘇の田作りは、鷹山の森の姫神が「里」の歳祢神を所を訪れ、五穀を産むといわれ、それを迎える神事が阿蘇の御前迎え(火振神事)であり、その最終段階が「田作り神事」である。中世、阿蘇の一年は、下野(鷹山ともいう)の「野」の火の神事と「森」の神事で開始される。ここに日本の「森」と「野」の役割の原型が見える。一方、昨年に続き、京都の周辺部に広がり「野」と「森」の役割、都市における機能に注目し、紫野の調査を実施した。鴨川を挟んで下賀茂社の「森」と「紫野」は存在し、密接な役割をもつ。葬送(火葬地)と御霊会(やすらえ花)が行われ、野々宮としての齋院の御所がある紫野と「ただすの森」(下賀茂の森)が隣接する関係に注目している。さらに、本研究の国文的アプローチでは、歌謡や散文にみられる「場」としての「野」や「森」、さらに、そこで歌われる「歌」の役割に注目して解明を進めている最中である。
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