2009 Fiscal Year Annual Research Report
清末のアヘン追放運動と中国アヘン税収をめぐる中央・地方間の抗争との関連
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19520602
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| Research Institution | Okayama University |
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Principal Investigator |
新村 容子 Okayama University, 大学院・社会文化科学研究科, 教授 (80362945)
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| Keywords | 中英禁烟協定 / 統税 / 四川総督趙爾巽 |
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| Research Abstract |
本研究は、清朝最末期、清朝体制再編の時期における財政中央集権化の試みと、アヘン追放運動との関わりを考察するものである。1906年の「禁烟上諭」と1907年の「中英禁烟協定」の締結に始まるアヘン追放運動は、アヘン吸烟という旧弊の一掃を目指した社会改革運動であると評価されてきた。しかし、そのようなとらえ方は、当時の清朝中央政府が財政破綻に瀕しており、将来増収の可能性のある税源として中国アヘンがいかに重要であったかを過小評価していると思われる。本研究は、旧弊の一掃という大義名分の裏で、中国アヘン税収を地方政府から奪い、中央政府に吸い上げようとする企図がなされていたことを明らかにし、アヘン追放運動の意図をとらえなおそうとするものである。
アヘン追放運動を考える際には、インドアヘンの追放と、中国アヘンの追放との二つに区分して考察する必要がある。まず、インドアヘンの場合、インドアヘン貿易自体、量的にも価値的にも、最盛期の10分の1に縮小しており、英領インド財政における重要性を失いつつあった。しかも、アヘンの輸出は不道徳であるというアメリカが主導する国際世論の圧力が強まっていた。この二つの理由から、イギリスにとってインドアヘン貿易を続けることのメリットは少なくなっていた。また、清朝中央政府は、輸入インドアヘンの関税収入を毎年571万兩獲得していたが、不都合な点もあった。一旦関税を払ったインドアヘンは内地において課税を免れるという規定は、精製アヘン(しばしば中国アヘンにインドアヘンが混ぜられている)に対する中国側の自由な課税を制約するものであった。すなわち、1906年当時、イギリスにとっても中国にとってもインドアヘン貿易はデメリットが大きい代物になりつつあった。
その一方で、中国アヘンの生産は莫大な量にのぼり、正確な統計はないが、インドアヘン輸入量の30倍から50培以上ものアヘンが生産されていたと推計されている。その中国アヘンから清朝中央が獲得している税収は1907年当時約4500万両であったと言われている(英国公使ジョーダンの報告)。インドアヘン関税収人の7倍以上にもなる。また、清朝の歳人の6分の1にも相当する、しかも、地方政府が獲得している中国アヘンの税収ははるかに莫大であった。地方政府が獲得していた中国アヘン税収は、財政難に苦しむ義和団後の清朝中央政府にとって、垂涎の的であった。本研究を通じて明らかにできた点は、3点ある。
第1に、中国税関の英文史料によれば、1906年に始まるアヘン追放運動直前、中央政府と地方政府との間では、中国アヘンに対する課税をめぐって熾烈な争いが進行していたことがわかった。とりわけ1903年に始まる中国アヘンに対する「統税」の導入の試みは、最大のアヘン生産地である四川省など西南諸省のアヘン収入を中央に吸い上げようとする政策である、しかし、地方政府は、「統税」導入のために中央から派遣された役人を非常な警戒感で出迎えた。結局、「統税」は、地方政府からの反発に遇い、実現できなかった。すなわち、アヘン追放運動の直前に、中央政府はアヘン税収の中央政府取り分を増加させようとして失敗していた。1906年に始まるアヘン追放運動は、国際的に評価された大義名分のもとに、中央政府による中国アヘンのコントロール強化をめざしたものであり、「統税」の再導入としての意味合いを持つのではないか。
第2に、第一档案館に収録されている「趙爾巽全宗档案」には、四川総督としてアヘン追放運動を指揮した趙爾巽の関連文書を多く含んでいる。それらの史料を読むと、四川総督趙爾巽はアヘン追放運動を眞に実行しようとしていたとは到底思えない。建前として禁止令は出しているが、現実の政策は、漫然としたものであり、各地で混乱が起きている。
第3に、アヘン生産の停止を拒否する農民たちに対して、四川省政府は、定の年限を限り、農民の損失分を補填する政策を採用した。地方政府は、アヘン生産を完全に停止することは考えておらず、農民に2～3年間アヘン生産を停止させ、イギリスが中国側のアヘン生産禁止の成果を評価し、アヘン貿易停止に同意した段階でアヘン生産を復活させる狙いであったようである。
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Research Products
(2 results)
