2008 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
19520617
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Research Institution | Iwate University |
Principal Investigator |
安井 もゆる Iwate University, 教育学部, 准教授 (70241502)
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Keywords | 西洋史 / 古代ローマ |
Research Abstract |
昨年度の研究で、養子縁組の実例の検討の結果、帝政期以降において、真正の養子縁組よりむしろ「名乗りの条件」の相続、つまり被相続人の名前の継承を条件とした相続の形が多くを占めることが明らかとなった。本年度はこのことを踏まえ、「名乗りの条件」の相続の歴史的展開の様相を、より詳細な史料分析を通じて検討した。その結果は以下の通りである。 「名乗りの条件」の相続は、起源は明確でないが、共和政末期には確かな実例が見いだされる(Dolabella, Tiberius, Drusus Libo, Salvitto)。さらに同時代人キケロの表現から、それは当時すでに一般的慣行として広がっていたと考えることができる。元首政期になると、とりわけアウグストウス時代より以降、一般上層身分にあって、多くが養子縁組よりむしろ「名乗りの条件」の相続を選ぶ傾向が見て取れる。 「名乗りの条件」の相続が養子縁組にほとんど取って代わるに至った背景には、本質をまったく異にするはずの両者の区別の曖昧化があったと思われる。元首政期の諸作品にあってこれらはともに同じ表現で表される(adoptare, adoptioまたin nomen adsciscereなど)。また相続による名前の被継承者・継承者は「父」「子」と呼ばれる。こうした曖昧化は、共和政末期から徐々に進行していたと思われる。そのことは、カエサルとオクタウィウスの歴史上有名な縁組に例証される。 以上の考察から、共和政期から帝政期にかけて進行した養子制の変化が跡づけられた。これは、当時の社会的変容のあり方を理解するうえで、重要な手がかりとなる現象であるといえる。
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Research Products
(1 results)