2007 Fiscal Year Annual Research Report
近世ヨーロッパの神学的ペスト文書-世界の脱魔術化に関する学際的研究
Project/Area Number |
19520641
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Research Institution | Osaka Prefecture University |
Principal Investigator |
佐々木 博光 Osaka Prefecture University, 人間社会学部, 准教授 (80222008)
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Keywords | 世界の脱魔術化 / 神学的ペスト文書 / ミアズマ / ジロラーモ・フラカストーロ / 感染説 / テオドーア・べーザ / ヨハンネス・レーディンガー / 医学的なペスト文書 |
Research Abstract |
近世ヨーロッパの世界の脱魔術の進行を、ルター派、カルヴァン派、カトリックのペスト理解の変遷から考察した。近世のペスト文書を最も豊富に所蔵するヘルツォーク・アウグスト図書館に五ヵ月半滞在し、研究に従事した。宗教者が残した神学的ペスト文書においては、三宗派のペスト理解に大きな差が見られた。中世にはペストはミアズマと呼ばれる臭気に由来すると考えられた(瘴気説)。1546年にイタリアの医師ジロラーモ・フラカストーロがペストは微細な物質を介して感染するという説を発表した。最新の感染説を前にして三派の開明的な神学者たちの態度は大いに異なった。カトリックの聖職者が瘴気説を神罰と結びつける魔術的ペスト理解に留まったのに対して、プロテスタントの神学者や牧師は比較的速やかに感染説を受け入れた。しかし、カルヴァンの後継者テオドーア・ベーザがそれを全面的に受け入れ、神学的にも根拠づけようとしたのに対して、ベーザの議論に触発されたルター派の牧師ヨハンネス・レーディンガーは医学の領域では感染説の有効性を認めるものの、神学の領域では伝統的なペスト理解に固執した。ルター派の感染説に対する態度は妥協的であり、カルヴァン派の態度は非妥協的であった。さらにこれが医師のペスト理解にどのような影響を及ぼしたのかを考察するために医学的なペスト文書に調査を拡げた。カルヴァン派の医師が人間という種の概念を重視し、ペスト医療の普遍性に道を開いたのに対し、ルター派とカトリックの医師は富者と貧者に分けて考察を展開する。ルター派の医師が富者と貧者で別々の処方を提案したのに対し、カトリックの医師は富者の寄付を通じて貧者にも同じ医療を施すことに拘った。このような医師たちのペストに対する考え方の違いが三宗派のペスト理解とどのように連動しているのかを突き止めるのが次の課題である。
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